【逢魔時退魔学園】
???「だから！できるだけ急いでくださいって何度も言ってるじゃないですか！」
三善先生「わかっている。だからこそ、今動ける中で最も＿＿」
???「その結果も気に食わないんです！第一、こうしている間にもあの子が＿＿」
ファイテン「あの、緊急だと呼び出されたんですが…」
三善先生「すまないな、ファイテン」
???「……」
ファイテン「えっと、そちらの方は……？」
???「……」
???「あなたは私をしらなくても、私はあなたを知ってるわ」
ファイテン「は、はぁ…」
???「……」
ファイテン（なんだろう。凄く見られてるけど…」
百花文「すみません。少し遅れました。＿＿あれ？」
百花文「…紫乃（しの）さん？」
紫乃「文じゃない！久しぶり！元気してた？吐血は大丈夫？」
百花文「えっ、あっ。は、はい」
紫乃「ファイテン付きの方位師になったって聞いてから一度は会ってみたかったけど＿＿」
紫乃「その血色なら大丈夫そうね！良かった良かった」
百花文「お、お久しぶりです…」
三善先生「いいのか？緊急の事態だと言っていたのはお前だが」
紫乃「緊急の事態だからこそですよ」
紫乃「今まで間接的に接したことはありましたが、こうして顔を合わせたことは無かった」
紫乃「直に見て力が足りないなら、別の陰陽師を派遣しないといけませんから」
ファイテン「あ、あのー」
紫乃「初めまして。と言っておくわ。はぁ…まったく」
紫乃「私の名前は紫乃。土御門澄姫の方位師よ＿＿」
ファイテン「……」
ファイテン「………」
ファイテン「…………」
ファイテン「え、ええーっ！」
紫乃「そんなに驚くことは無いでしょ。陰陽師には方位師がいるのだから」
ファイテン「そ、そりゃそうですけど…あっ＿＿」
ファイテン「私はファイテンです！よろしくお願いします！」
紫乃「知ってるわよ、イヤと言うほどね。それじゃ、遠征の準備をしてちょうだい」
ファイテン「遠征…ですか？」
紫乃「文には場所と転送方法をあわせて伝えておくわ」
紫乃「山城国に隠されし屋敷【土御門家 別邸】にね＿＿」
ファイテン「…えっ？」
ファイテン「土御門邸って、澄姫に何かあったんですか！？」
紫乃「隠された屋敷ってよりも、澄姫が気になるのね」
紫乃「私としても澄姫を最優先にして欲しいし、すれはすごくいいことよ」
ファイテン「あの、それより…！」
紫乃「朝廷や幕府に参上する陰陽師とは違い、実践向きの陰陽師が暮らす屋敷」
紫乃「普段澄姫もいる隠された屋敷。それが【土御門家 別邸】よ」
紫乃「元々学園が出来るまでは拾った子を育成していたみたいね」
三善先生「…ああ、そうだな…」
紫乃「澄姫が戻ってきてしばらくしてから、別邸に鬼が訪れたのよ」
百花文「鬼って、そんな！土御門家の膝元にですか！」
紫乃「話を聞く限りでは危害を加えるつもりはなく、澄姫に加護を与えた、らしいけど…」
紫乃「『この地で我らを倒すがいい』だけで後は話にならないのよね」
ファイテン(悪路王さん…とは違うよね？）
ファイテン「澄姫は無事なんですか？そんなことがあったら＿＿」
紫乃「真っ先に戦う子だからね…でも、ダメなのよ」
紫乃「加護を与えられたからには危害を加えられないらしいの」
紫乃「討伐できるだけの陰陽師があなたしかいないのは不満だけど＿＿」
紫乃「力を貸してもらえないかしら？現地には私もいくわ」
ファイテン「もちろんです！」
紫乃「そう。ありがと。文、場所を教えるわね」
百花文「はいっ！お願いします！」
ファイテン（澄姫…大丈夫、だよね？）
【土御門家 別邸壱】
紫乃「気をつけてね。この屋敷には護衛の為に式が放たれている。契約を結ばず、かつ力がある者が踏み入れた場合、襲い掛かってくるわ」
ファイテン「えっ。式姫が、ですか！？」
紫乃「違うわ。【式】よ。全く…座学で習ったでしょ？」
紫乃「雑多な【式】との契約であって【式姫】ではない＿＿」
紫乃「細かい命令や意思の疎通は行えない、機械的な警備だと思ってちょうだい」
百花文（倒してもいいんでしょうか？）
紫乃「いいわ。私が許可します」
紫乃「こんな状態でも外からみたら普段に同じ。この警戒態勢はとけないのよ」
紫乃「屋敷にあるものも使用していいわ。どうせ本家からすぐに補充が届くし＿＿」
ファイテン「今は澄姫を優先、ですしね！」
紫乃「そうよ、その通り。…ありがとう、ね」
行商人「さすがに人様の家の中で商売するわけにはいきませんからね」
先遣隊「それにしても大きな家ですね。屋敷の中は式を放しているそうです」
使用人「その格好は逢魔時退魔学園の生徒ですか？お嬢様も学園の生徒なんですよ」
使用人「この屋敷の家の方以外が入るのは、私が知る限り初めてですね…」
使用人「たまに囲炉裏の中にものが捨ててあって困っているんです」
使用人「これだけ広いと屋敷に仕えているものでも慣れるのに苦労します」
使用人「屋敷の中ではくれぐれも静かにお願いします」
使用人「隣の部屋には様々な書物がおいてあります。陰陽師様には意味があるのでは？」
使用人「屋敷の式は私達には危害を加えませんが、外部の方は注意して下さい」
紙片「弓術や式姫召喚のコツについてまとめられている。かなり読み込んだ跡があり、部屋の主は寝る前に見返す週間だったと思われる」
紙片「本から零れ落ちたのだろうか？何か解除に関して調べていたと思われるがどの本から落ちたのかはわからない」
紙片「部屋の主が作ったものだろう。式姫に関してしっておくこと。として、すべての式姫が分かりやすくまとめられている」
【土御門家 別邸拾】
土御門澄姫「……」
土御門澄姫「そう言うことだったの。都合のいい力だと思ったわ」
土御門澄姫「でも、そのことはあの子の彼は知らない、のよね？」
？？？「その通りその通り。知るは陸奥に座するもの」
………
ファイテン「澄姫！」
紫乃「澄姫！」
土御門澄姫「紫乃に…ファイテン！？そう。やっぱり…」
？？？「ほう！これは面白い！なあ後鬼（ごき）よ！」
後鬼「然り然り前鬼（ぜんき）よ。力持つ陰陽師が彼の者とは」
後鬼「だがこうも考えられよう。我らの加護与えしものが＿＿」
前鬼「そうだな。それだけの力があった。そう考えれば誇らしくもある」
後鬼「さぁ娘よ＿＿」
前鬼「分身である我らを討伐し、縛りから脱却させ＿＿」
ファイテン「ちょっ、ちょっと待って！いきなりで話が…」
ファイテン「あなた達は前鬼と後鬼で澄姫と一緒に居たい…んですか？」
前鬼「相違ない。我は前鬼」
後鬼「相違ない。我は後鬼」
前鬼「約定に従いて」
後鬼「鬼と現（うつつ）の境を守りしもの」
前鬼「枠を越えし鬼を討つために＿＿」
後鬼「力と意思ありき者に加護を与えた」
紫乃「勝手に力を与えてこうしろなんて呪いと一緒じゃない」
後鬼「娘よ、問おう。加護と呪いの違いは何ぞ？」
後鬼「我らは力を与えただけ。何も縛りはしていない」
前鬼「加護と呪いの違いは意思ではなくその約定に縛られるかである」
前鬼「加護も呪いも本質は変わらぬ。変わらぬのだ」
紫乃「そんなの言葉の違いよ！澄姫にとっては＿＿」
土御門澄姫「いいのよ、紫乃。いいえ、紫乃姉」
紫乃「…っ！」
ファイテン「加護も呪いもわからないけど＿＿」
ファイテン「澄姫は、それでいいの？私がこの人たちを討伐しても」
土御門澄姫「ええ、いいわ。突然で驚いたけど＿＿」
土御門澄姫「今の私には必要だから。来てくれて、ありがとう」
ファイテン「詳しくは、後で聞かせてもらうけど…」
前鬼「我らも誓おう。事の前後を説明すると」
後鬼「だが今は少しでも早く、約定から我らを解き放つことを望む」
ファイテン「わかりました…いきます！」
【逢魔時退魔学園】
前鬼「我らは遥か昔、使役された鬼の夫婦」
後鬼「使役せしものが死した後も鬼と現の境界を守るべく、約束を交わしたものなり」
ファイテン「加護でも呪いでもなく、約束なんですね」
前鬼「我らには大きな言の葉の違い、気づくか娘よ」
後鬼「約束を違えることはない。だが一部を切り離す必要があった」
前鬼「その折、力のある陰陽師が現れた」
百花文「その陰陽師が、山城に戻った澄姫さんだったんですね…」
前鬼「我らの加護に耐えられるだけの力、真の事を知る意思、併せ持つ陰陽師」
後鬼「夢枕に立ち指示を出し、加護を与えた」
前鬼「後はその娘、土御門澄姫の使役に入るだけであったが＿＿」
紫乃「呆れた…大体わかったわ。後に使役に入る為に加護を与えたならその者からは危害を加えられない。それは自殺に他ならないから」
紫乃「要は焦って手順を間違えた尻拭いをさせただけじゃないの」
百花文（紫乃さん、前鬼後鬼に全く物怖じしてない…変わらないなあ）
前鬼「……」
後鬼「……」
紫乃「まあ、後でじっくり聞かせて貰うわ。澄姫と二人でね」
紫乃「ファイテンも、それでいいわね？」
ファイテン「えっ、でも…！」
紫乃「澄姫、全部話したい？私は方位師だから、あなたが聞いた内容は知っているけど」
土御門澄姫「…いいわ、まだ私も調べなければいけないこともある」
紫乃「だそうよ」
ファイテン「澄姫がそう言うなら…でも、この前みたいなことは＿＿」
土御門澄姫「しないわ、約束する。そう。約束するわ」
ファイテン「うんっ！それならいいよ！」
