【逢魔時退魔学園】
百花文「……」
三善先生(校長先生の話、納得しろと言ってもやはり割り切れない、か…)
三善先生(………)
三善先生(これは、久しぶりに本気で怒られそうだな)
三善先生「ファイテンに文。少し私から頼みがある」
百花文「三善先生から頼み事ですか?また新種のあやかしとか…」
三善先生「そうではないな。【かくりよの門】関係のことだ」
ファイテン「個人的にとは珍しいですね。何かありました?」
三善先生「【大和戒那山神社】の近くに洞穴が隠されている」
三善先生「【八握の洞穴】…別名、【八握脛(やつかはぎ)の洞穴】が」
百花文「八握脛…土蜘蛛の別名ですね。そこも、かくりよの大門の__」
三善先生「いや、違う。この地は古くから土蜘蛛が巣を張っていた場所だ」
三善先生「八握脛と呼ばれる土蜘蛛の始祖。そのものが住まうと言われている」
三善先生「彼の地で、八握脛(やつかはぎ)を討伐して欲しいのだ」
百花文「土蜘蛛の始祖討伐、とは穏やかではないですね」
三善先生「今までは定期的に校長先生が自ら出向いていたのだがな」
三善先生「ここから先に進むのであれば、校長先生の見ている光景も覚えておいてほしい」
三善先生「だが__これは全て私の独断だ。危険も相応以上にある」
三善先生「断っても構わない。あくまで願いだ」
ファイテン「…行きます」
百花文「ファイテンさん…」
ファイテン「八重さんのお願い、学園の試練ではないお願いは久しぶりに聞きました」
ファイテン「きっと、私と文ちゃんのためだと思うんです」
百花文「それなら、私は精一杯補佐させてもらいますね!」
ファイテン「ありがとう、文ちゃん」
三善先生「道は長い。中継地点を使って二度に分けて進むのもいいだろう」
三善先生「…ありがとう。ファイテン」
ファイテン「はいっ!」
………
悪路王「これはお前の独断だ、と言ったな。ならば__」
悪路王「吾が何を伝えてもお前の独断の結果。それで良いか?」
三善先生「はい…助かります」
悪路王「構わん。そろそろ頃合いだとは思っていた」
悪路王(受け止めるだけの器はもう十分に育っているだろう)
【大和国 戒那山神社 かいなさんじんじゃ】
ファイテン「ここから先。洞穴には人はいない、って言ってたけど…」
ファイテン「なんだろう、この辺りから感じられる雰囲気は…」
百花文(妖怪【八握脛】はそれこそ多くの伝承に現れます)
百花文(けど、ここは…あの駿河の社とも違いますね…)
悪路王「古くからあると言われている土蜘蛛の洞穴。その割には知る者が少ない。お前も初耳であっただろう」
百花文(…はい)
悪路王「権力者を脅かさないよう_無力さを表立てないよう_厳重に封印された洞穴だ。贄(にえ)によってな」
ファイテン「…それって!」
悪路王「今は先に進め。洞穴の空気を肌に感じろ」
悪路王「吾が続きを話すのは、洞穴に分け入った後だ」
先遣隊「広く、おぞましい力で満ちた洞穴を歩くことになる。長時間の探索は非常に危険なので、転送の陰陽玉を探しながら、少しずつ進むといい」
旅の修行僧「この神社の地下蔵の扉を開いてから寒気が収まらぬ。何か、恐ろしいものを封じているのだな」
行商人「準備をするならここでしていったほうがいい。地下は危険だからな」
陰陽師「既に結界は張っておりますので、神社の外にあやかしは現れることはありません。道中、お気をつけて」
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日記の紙片「この…からお礼を…くれば…おとうの元に戻っていいって…」
日記の紙片「…あれ、おかしいな。肘から先が…あれ、脚ってどこから生えて…どうして私、自分のセナカが見えているの?」
日記の紙片「…には二つの姿があるトの噂も立っている。どこかに手がかりガ、アレバいいのダガ…手がかりよりも出口が欲しい、ホシイ!」
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【大和国 八握の洞穴 やつかのどうけつ】
悪路王「大妖怪として名を残す土蜘蛛。その力は血によって紡がれる陰陽師をも凌ぐことがあった」
悪路王「封印を施した者の一族も力足りぬ者が出る」
ファイテン「……」
悪路王「これまで表に出なかった理由。封印を継続できた理由…力を弱めぬため、土蜘蛛を満足させるため、定期的に贄が送られていたからだ」
悪路王「大家のものではない。卵にすらなっていない陰陽師」
悪路王「野で拾われた。売られた子供の中でも素質のある者をな__」
百花文(逢魔時退魔学園の生まれた理由、校長先生はこう言ってましたね…)
百花文(各地にいる陰陽師の卵を保護し、陰陽師が必要であると見せつける学園)
百花文(常に暗かった、常夜のような存在だった陰陽師を陽の下であるけるように…)
悪路王「話の続きはまたいずれだ。今の内に考えをまとめておけ」
ファイテン「…はい」
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日記の紙片「取り込まれる…トリコマレル…ラクニ、ナレルなら、あの頃のキオクなんていらない…」
日記の紙片「…殺シテ?それが叶ワナイなら、コノ眼を潰せヨォ!」
日記の紙片「ワかった!俺以外のスベテがアイツなんだ!ナンダ、全部殺せばいい。そして最後にはオレモ、タオレレば_ニエトナレル…」
日記の紙片「アァ…ワタシッテ、コンナニ、オイシカッタンダ…」
日記の紙片「一、二、エ…!」(真っ白な紙に、蜘蛛の複眼のように血痕があり、細かく蠢いているように見える…)
日記の紙片「友達ができた。人と鬼の二人も…力と加護も得た。馬鹿げたことを止められるだけの。これでダメなら、力が足りないと言うのなら__」
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ファイテン「最後にあった紙片は…校長先生、ですか?」
悪路王「そうだ」
悪路王「ある時、贄とされそうになった少女を助けたいと願った陰陽師が居た」
悪路王「一時的に助けることはできたが、それではまだ足らぬ」
百花文(道中の紙片は…)
悪路王「贄となった者が遺したものもあるが、多くは土蜘蛛が記したものだ」
悪路王「潜る人間の恐怖を煽るため。絶望を与えるために」
悪路王「贄が与えられていた頃、命を落とした贄は土蜘蛛となった」
悪路王「自らの眷属を増やす八握脛(やつかはぎ)への罠も兼ねてだったらしいがな」
悪路王「それを許せぬ者がいた。だが、正すには力が足りなかった」
百花文(……)
悪路王「贄が増えぬよう、眷属が増えぬよう、定期的に足を運ぶ以外にはな」
ファイテン「だから、校長先生は…」
悪路王「此の度は泉でない者が侵入したのだ。牽制も兼ねていたのかも知れんな」
悪路王「取り込める程度の者なのか、眷属を減らせる者なのか、」
………
少女の声「私の力で、もっと厳重に封じてやる!二度と這い出せないように!」
???「足らぬな…その威勢は良いが、足らぬぞ小娘。タラヌ、タラヌ、タラヌ!」
???「我の影や、贄が至った眷属ならば、屠(ほふ)れよう。が、その刃、我まで届かぬ」
???「口惜しい!度重なる贄と脆弱(ぜいじゃく)な封印は眷属を与え、地霊と化す楔(くさび)とは!」
少女の声「鬼の力も手にした、仲間もできた!今の私なら__」
???「ならば試すといい。強者の絶望もまた愉快なり、愉快、ユカイぃぃ!」
悪路王「小細工に頼るとは興が醒めるぞ。八握脛(やつかはぎ)。土蜘蛛の始祖よ」
八握脛(知った気配、感じた。此度はその陰陽師か)
百花文(これが、八握脛…)
八握脛(【アレ】に絶望を実感せる以外の楽しみが訪れるか)
八握脛(陰陽師など幾時ぶりか、ブリカ。たとえ影が倒れようと、いま、このとき伝る怒り、今宵は馳走となりそうぞ!)
悪路王「ここまで進んできたのだ。心も揺れてはいないだろう」
悪路王「思うがまま、存分に刃を振るえ。吾が見届けてやる」
ファイテン「はいっ!」
【逢魔時退魔学園】
吉備校長「大体の話は八重から聞いた。洞穴に行ってきたようじゃな」
ファイテン「…はい」
吉備校長「八重には後ほど灸を据えるとして、じゃ…」
吉備校長「何も問わぬ。言い訳もせぬ。今は礼だけ言っておこう」
吉備校長「今回の討伐、ありがとう。背負わせてすまなかったな」
吉備校長「今度はまたワシが__」
ファイテン「私も行くようにします。このことを忘れないように」
ファイテン「道中で今まで犠牲になった人の思いや、校長先生の道程も知りました」
百花文(私も…もう一度、いろいろ考えてみたいと思います)
吉備校長「ワシの道程…?はて、そのようなものは__」
悪路王「吾が置いた。泉の日記から覚えている部分を抜き出してな」
吉備校長「悪!オヌシ…」
悪路王「時が経とうと、あの日記を残した時の感情と視線は忘れられぬ」
悪路王「それに_」
悪路王「弟子に頼ることも少しは覚えろ。吾から言えるのはそれだけだ」
吉備校長「…」
吉備校長「次に盃を酌み交わす時には、オヌシが酒を用意するのじゃぞ?」
悪路王「ふふ…吾に頼るのはそのくらいか?」
吉備校長「いいや、これは頼りではない。ただの罰じゃよ」
ファイテン「あっ、罰と言えば!その…先生には…」
吉備校長「心配するな。そう悪いようにはせぬ。そうじゃな_」
吉備校長「一月ほど、食事に制限を付けて貰うくらいじゃな」
ファイテン(それって_)
百花文(三善先生にはかなり厳しい罰ですよね…)
吉備校長「次なる門が開いたとき、また使いを寄越すようにしよう」
吉備校長「今は身体を休めておくと良い。心身に良い土地ではなかったであろう」
ファイテン「わかりました!」
………
吉備校長(地霊となったのが楔(くさび)、か…)
吉備校長(今のあやつであれば、地霊と化した八握脛(やつかはぎ)も姿を見せるかも知れぬな…)
吉備校長「地に縛られた霊。という意味であれば、ワシも大差ない、か…」