【逢魔時退魔学園】
ファイテン「あの、文ちゃん…私は__」
百花文「ファイテンさんに謝らないといけないことが、いっぱいあるんです」
百花文「校長先生に止められていたとはいえ、今回のことを黙っていたこと」
百花文「そして、この間この場所で伝心を切ってしまったこと」
百花文「そのあと、怖くて話題に出せなかったこと」
百花文「他にも__」
百花文「いつも遠征を見ていることしかできないこと。肝心なことを直前にしか伝えられないこと」
百花文「他にも、他にも…」
百花文「陰陽のお守りのお礼だって、まだ全然返せていません」
ファイテン「でも、それはきっと元はといえば私のせいだよね」
百花文「…聞きましょう」
ファイテン「伊邪那岐様と校長先生から聞いたこと。残っている最初の記憶」
ファイテン「私が母だと思っていた人が、かくりよの大門を閉じるために__」
ファイテン「かくりよへ移ったときに、遣わされたのが私」
ファイテン「両面宿儺さんや、一目連。悪路王の鏡像の言葉」
ファイテン「多分、私こそがかくりよの__」
百花文「それ、違うと言ったら信じて貰えますか?信じることができますか?」
百花文「その相手の言葉は信じられて、私の言葉が信じられない、なんて言わないでくださいよ?」
ファイテン「文ちゃん?」
百花文「細かい矛盾点にも目を瞑って、わかりやすい答えに縋(すが)ろうとしていませんか?」
ファイテン「……」
百花文「一緒に、考えましょう?ファイテンさん」
百花文「私にとってファイテンさんは相棒であり、友達であり、絶対に失いたくないものなのです。あんな、勝手な悲壮な言葉を…」
百花文「聞かされる方の身にもなってください!」
ファイテン「……聞かれて、たんだ。失敗したなあ…」
百花文「陰陽師を続ける理由、増えてもいいじゃないですか」
百花文「かくりよの大門を閉じる。あの子に会う。そして自分を知る」
百花文「お手伝いさせてください。方位師としても、友達としても!」
ファイテン「……」
【逢魔時退魔学園】
三善先生「ファイテンか。すまないが校長先生を__」
ファイテン「探しているんですか?」
三善先生「あ、ああ。そうだが…大丈夫か?具合が悪そうだが」
ファイテン「あっ、大丈夫ですよ!もし見つけたら伝言しておきましょうか?」
三善先生「そうだな、そのくらいなら問題ないか。お前なら知っていてもいいことだ」
ファイテン「私、なら?」
三善先生「大和国の戒那山神社のことだ」
ファイテン「……」
三善先生「八握の洞穴で八握脛(やつかはぎ)の鼓動が強くなっている、との報告があってな」
ファイテン「あの、土蜘蛛ですか」
ファイテン(校長先生の日記と、悪路王さんと…)
三善先生「念のために校長先生に__」
ファイテン「あっ、いいですよ!私が行ってきます!」
三善先生「だが…」
ファイテン「急いで行ってきますねー」
………
三善先生「わかりやすいな。本当に。あぁ…」
三善先生「昔から、何も変わっていない」
【逢魔時退魔学園】
ファイテン「八握脛を討伐してきました!放ってはおけませんからね」
三善先生「ファイテン」
ファイテン「は、はい…!」
三善先生「私ももう少し歩を進め、八握脛を討伐できるくらいにはなっておくべきだったのかもしれんな。この歳になって、改めてそう思う」
ファイテン「あの…先生?」
三善先生「私と鈴がまだ、歯も抜け替わらぬ頃、あの二人に救ってもらってな」
三善先生「その頃から、定期的に大和国には向かっていたよ」
三善先生「それから少しして、あの人が姿を消し、『あやつの娘じゃ』と紹介されたのがお前だ」
ファイテン「……」
三善先生「今思えば、かくりよの大門を開いたのはあのくらいの時期だったのだろう」
三善先生「それから陰陽師として経験を積んだが、鈴とは分かれることになり、私もまた、高みを望むことは諦めた」
………
三善先生「正直に言おう。軽蔑して貰って構わない」
三善先生「私はファイテンにあの人を見ていたんだ」
三善先生「陰陽師としての修行を積み、強くなってもらうこと」
三善先生「いざというときの力を、身に着けて貰うことを恩返しだと思う一方で、あの人の娘だからこそ、これだけの才能があっても仕方がない」
三善先生「だから私は諦めて正解だったんだ。後進を育てるのが正しいことなんだ__」
三善先生「鈴を失った後の失意や、嫉妬。納得させるための汚い気持ちもあった」
ファイテン「八重さん…」
三善先生「しかし、今ファイテンを想っている気持ちに嘘偽りはない。このことだけは、全てに誓おう」
………
三善先生「そう…あの人に、本当によく似ているけれど__忘れ形見である前に、あなたは私の教え子であり、手のかかる妹よ」
ファイテン「あり…がとう、ございます…」
三善先生「ここ最近の動きや校長先生の言動から、私だって察することはあるけれど…」
三善先生「私はファイテンから聞くまでは結論を持つことはしないわ」
三善先生「頼るべき友達だけじゃない。姉もここにいることを忘れないでね」
ファイテン「……」
【土御門家別邸】
ファイテン「……」
土御門澄姫「…なによ。訪ねて来るなり黙っちゃって」
ファイテン「その。澄姫が私をその、えっと…」
ファイテン「こ、殺そうとしたのって、私がかくりよの大門、だから?」
土御門澄姫「…それ、悪路王か校長先生から聞いた…の?」
………
(だっ、だっ、だっ、だっ)
紫乃「澄姫!」
土御門澄姫「紫乃姉!?」
紫乃「あなたも大概意気地なしね。いつまでファイテンに甘えてるのよ!」
土御門澄姫「どうしてここに…」
紫乃「前鬼後鬼が言ってたのよ。ただならぬ雰囲気で娘が来た、って」
紫乃「少し話を聞かせて貰ったら…どういうことよ」
土御門澄姫「黙って聞いてたのね」
紫乃「それは後でいくらでも謝る!でも、先に答えて」
紫乃「あなた、まだファイテンに直接謝ってないの?」
ファイテン(…あっ、そう言えば…嬉しくて忘れてたけど…)
土御門澄姫「…うん」
紫乃「呆れた…あんたね、友達に刃を向ける覚悟が出来て__どうして謝る勇気がないのよ。普通逆でしょう?」
土御門澄姫「だって__」
紫乃「だってじゃないわよ!」
土御門澄姫「うっ…」
紫乃「伝心は切る。約束するわ。だからちゃんと話しなさい」
紫乃「そして、ちゃんと謝ること。二人が前に進むためにね」
………
ファイテン「紫乃さん。行っちゃったね」
土御門澄姫「そうね…」
ファイテン「紫乃さんも知ってたんだ。私のこと」
土御門澄姫「悪路王と初めて謁見したとき、伝心を通されて、一緒にね」
土御門澄姫「今考えると、それも策だったんでしょうけど」
ファイテン「澄姫が私に刃を向けたのは、私の生い立ちのせい、かな」
土御門澄姫「吉備泉と、とある陰陽師がかくりよの大門を開いたとき__そのとき、かくりよ側から大門を閉じたときに残された赤子」
土御門澄姫「それがファイテンだ。そう聞いたわ」
土御門澄姫「吉備泉は大門を封じるために陰陽師を育成したが__」
土御門澄姫「達するものが現れなかったときの保険のため、そして…」
土御門澄姫「あなたを間接的に封じるためにあの地に学園を作り、見張っていた。と」
………
土御門澄姫「卑怯だと思った。何も言わず、ファイテンを利用して」
土御門澄姫「私は、私こそは大門に達するために、学園から離れて先を急いだわ」
土御門澄姫「けれどあなたは追いついてきた。いいえ、私よりも到達が早そうだった」
土御門澄姫「だから、刃を向けた。足を止めさせるために」
土御門澄姫「大怪我をさせてもいいと思っていた。殺すつもりじゃないと勝てない、とも」
土御門澄姫「そして、ファイテンに大門が封じられているならば__あなたを弱らせて封印を引きずり出し、私に移し替えるために」
土御門澄姫「私が大門になるために!」
………
ファイテン「澄姫…それじゃ、覚悟が足りないから私を殺す、ってのは__」
土御門澄姫「半分は…本気よ。そうじゃないと勝てないと思ったから」
土御門澄姫「後は、自分を奮い立たせるため。言い聞かせるために」
土御門澄姫「だって…だって…」
土御門澄姫「大好きな友達に、嘘をついてまで襲い掛かるのよ!」
土御門澄姫「今だって、後悔で手が震えるわ!愚かな決断も、あなたを泣かせたことも!」
………
土御門澄姫「全てが終わった後、校長先生は私の話を聞いてくれた」
土御門澄姫「謝られた。隠していたことを。そして、わだかまりを無くすために__手合わせまでできるよう、嘘をついてくれたのに」
土御門澄姫「…私は、まだ謝ることもできなかった」
ファイテン「……」
土御門澄姫「ごめんなさい…ごめん。私の勝手な想像で、周りを傷つけて」
土御門澄姫「護法霧散はね、封印に関する知識を調べていたときに覚えたの」
土御門澄姫「そんな、普通の陰陽師では使えない技も調べたのに」
土御門澄姫「結局それでは足りなかった。力も、覚悟も…でも、良かった…」
土御門澄姫「ありがとう。私に勝ってくれて…」
土御門澄姫「けれど今考えれば、私たちが刃を交えることこそ、悪路王の企み__」
ファイテン「そこ、実は未だにわからないんだよね…」
ファイテン「悪路王…さん…の狙いが私の知っていることの通りなら__校長先生が黙っていないと思うんだ。それこそ、二人の狙いが同じじゃない限り」
ファイテン(何か、まだ…)
………
ファイテン「私もね、澄姫。自分の生い立ちを知ってから、すぐに結論を出そうとしてた」
ファイテン「もうちょっと、考えようか。ありがとう。謝ってくれて」
土御門澄姫「…うん…」
ファイテン「私を、ファイテンを大好きと言ってくれて嬉しかったよ」
土御門澄姫「そっ、それは!そこだけ抜き出さないでよ!」
ファイテン「あはは…でも、これも今のうちに伝えておかないと、だからね!」
ファイテン「……」
【逢魔時退魔学園 裏手】
伊邪那岐「では、もう一度聞こう。お前の名前はなんだ?」
ファイテン「私の名前は__」
ファイテン「ファイテンです。それ以外のものではありません」
ファイテン「文ちゃんや、八重さんや、澄姫。それだけじゃない__一緒に戦ってくれる、一緒に居てくれる式姫が名前を呼んでくれる」
ファイテン「それが、私です!」
伊邪那岐「そうか…ああ、そうだ。お前はファイテンだ」
伊邪那岐「己の主の娘。ファイテンだ」
ファイテン「色々あって混乱もしましたが、自分のことについてはまた考えます」
ファイテン「けれど今はその前に、私の名前を知って欲しい人たちがいるんです」
伊邪那岐「ほう…一番の疑問かと思ったが、それよりも先に、か」
ファイテン「私のことは、その人たちからも改めて話を聞きたいな、って」
伊邪那岐「…相分かった。それならば__」
………
ファイテン「__っ!うっ!」
伊邪那岐「ど、どうした!」
………
ファイテン「あれ、三善先生は…?」
???「報告がワシでは不足かの?」
ファイテン「いや、不足も何も生徒にそれは__」
三善先生「ファイテンか。どうした?こんなところで」
ファイテン「三善先生!ちょうどよかった。遠征の報告を聞いてください」
???「ふーむ…ワシに報告ではダメだったか」
三善先生「私も問題ないと思いますが…」
三善先生「ファイテン、校長先生への報告では不満なのか?」
ファイテン「へ…?こ、校長先生!?ちょっと派手な格好をした生徒かと…」
???「こうして顔を合わせるのは初めてじゃからな、仕方ない仕方ない」
三善先生「吉備泉(きびのいずみ)先生。この逢魔時退魔学園の校長先生だ」
三善先生「陰陽師の始祖と呼ばれる吉備に連なる方で、学園の創始者でもある」
三善先生「艾年(がいねん)を数えているはずの年齢を含めて謎が多いと__」
………
ファイテン(どうして、あの時が初対面じゃないのに…)
ファイテン「そうだ。初対面のはずがない…校長先生とは何度か顔を合わせていた」
ファイテン「矢を拾って貰ったこともあった。それなのに…」
ファイテン(あのときの八重さん、紹介してくれていたのかと思っていたけど__}
………
ファイテン(違う、初対面、といったのは校長先生で、八重さんは歳をからかって…?)
………
伊邪那岐『…拙(つたな)い、な』
伊邪那岐(あやつの力が急激に弱まった。そのせいで__)
伊邪那岐(元々薄くなっていた、記憶の制御が徐々に解かれている)
伊邪那岐(いや、これは__)
伊邪那岐(あやつが悪路王に敗れた。そういうこと、なのか…?)
ファイテン「あの、伊邪那岐様…?」
伊邪那岐「すまないな。少しやることができた。記憶の件も共に調べておこう」
ファイテン「あ、は…はい」(記憶のこと、とは言っていないのに…)
伊邪那岐(真なる居城の位置。あやつの向かった場所。手の届くところにあれば良いが__)
伊邪那岐(道が無ければ、己が作るだけ。だな)
ファイテン「……?」
伊邪那岐「主の娘が、進むための道を__」
コメント
三善先生がファイテンさんになっていると思われる箇所があります!
>ファイテン「あ、ああ。そうだが…大丈夫か?具合が悪そうだが」
余計な口出しすみません。
あ、本当ですねw
文章チェックはほんとに助かりますよー!
ありがとうございます。