【逢魔時退魔学園】
ファイテン「文ちゃん、何かわかった…?」
百花文「いいえ、残念ですが…ファイテンさんは、ひと休みしてください」
百花文「ここしばらく、ゆっくりする時間もなかったでしょうし」
ファイテン「ふ、文ちゃんが優しい…」
百花文「普段は優しくないかのような言われようですが…」
ファイテン「あはは、そういうわけじゃないよ!?ねえ、文ちゃんもひと休みしたら…?」
百花文「お気持ちありがたいですが、私はもうちょっと作業を続けます。まだ調べていない書物もありますし」
ファイテン「そっかぁ…うーん。それにしても、四国が沈む、だなんて」
百花文「悪路王さんの言を疑うわけではありませんが__」
ファイテン「ねー、ずいぶん物騒なことを言うわりに、いつも通りに過ごしてるし」
百花文「お酒の量も減りませんね…」
悪路王「それとこれとは別の話だな」
ファイテン「わっ!?わぁっ!?いきなり現れないでください!」
百花文「少し前からそこにいましたけどね…」
悪路王「いるのをわかって言っていたのか」
百花文「はい、もちろんです」
ファイテン(うっ、文ちゃんが悪い顔をしている…)
悪路王「ふふ、まあ良い。その様子ではこれといって収穫はなしか」
ファイテン「あの、四国が沈むっていうのは…」
悪路王「そのままの意味だ。そして、それ以上の情報は吾も持たぬ」
ファイテン「…ええ!?もしかして、とは思ってたけど」
悪路王「それはそうだ、吾をなんだと思っている。ただ知り得たことを教えたまで」
悪路王「が、何もないよりはよかろう」
悪路王「お前たちが求めるもの、追うものの手がかりが、四国にないとも限らん」
悪路王「そこに可能性があったとして、その望みが潰えるやもしれぬのだ」
悪路王「となれば、仔細はともあれ伝えるべきだったと思わぬか」
ファイテン「そこについては素直に感謝してますけど、だったら、もうちょっと危機感をですね…」
悪路王「何を言うか。吾は確かに教鞭をとる身となったが、今この場において、お前たちの師となるつもりはない」
悪路王「いや、これまでも、これからもな」
ファイテン「そう言われると返す言葉が…よーし!!」
百花文「ファイテンさん…?」
ファイテン「わかりました!今すぐに発ちます!」
百花文「といっても、まだ情報が…」
ファイテン「これだけ調べてもわからないんだもん。あとは足で稼ぐしかないよ!」
ファイテン「現地に行って、直接確かめてくる!」
ファイテン「聞きこみするにしても、ここにいるより現地の人と話した方がいいだろうし」
百花文「そうですか…この状況では、決め手もないので止めることはしませんが、さしあたって、どこへ向かうんです?」
ファイテン「うーん…【鳴門海峡】かな!」
百花文「また、どうして…?」
ファイテン「ええとね、渦潮を見てみたいんだ!」
百花文「…あの、ファイテンさん?」
ファイテン「あっはは、そんな顔しないで、文ちゃん…」
悪路王「まったく、いちいち笑わせてくれる」
ファイテン「悪路王さんまでそうやって…」
悪路王「吾のことなど気にするな。まあ、悪い選択でもなかろう」
悪路王「ひとの力及ばぬところに災禍あり。鳴門の海もまたその一つと言えなくもない」
百花文「それでは、私は引き続き調査を続けます。何かわかりしだい、すぐにお伝えしますね」
ファイテン「うんっ、ありがとう!それじゃあ、でかけるとしますか!」
【阿波国 大渦の流路(おおうずのりゅうろ)】
ファイテン「うーん、やっぱり全然空気が違うねー。風の重さも違う気がする」
ファイテン「あれ…?あそこに見えるのはなんだろう?いくつか並んでるけど…」
百花文(大渦の流路で珍しいものというと、塩田でしょうか)
ファイテン「えんでん…?」
百花文(海水から塩を作るためのものですね)
ファイテン「あー、あの山盛りになってるのってお塩なんだ?」
ファイテン「これだけお塩が盛ってあったら、あやかしも逃げていきそうだね!」
百花文(お塩で逃げていくのは幽霊では…)
ファイテン「そ、そうだっけ…」
百花文(まあ、それはいいとして)
百花文(今回は情報が足りていないので、あやかしについて、あまり助言ができません)
百花文(役に立てなくてすみませんが、無理はしないでくださいね)
ファイテン「はーい!」
村人「今日は天気もいいし、ちょっくらひと休みでもするかな」
村人「陰陽師さん、塩田を見るのは初めてかい?」
行商人「あやかしが出るようになってから、気つけ薬などがよく売れるようになったね。まだ在庫はあるから欲しければ売りますよ」
村人「ここの人たちはいつも泥まみれになるから、洗濯するのが大変なのよね。あなたに言っても仕方がないんだけど」
村人「おぉ、塩田に入ってくるのは構わないが、荒らさないどいてくれよ」
町娘「時化がひどい時でも流されないような工夫をしているんだって!」
村人「ほら、あんたも釣りするんだったら餌を分けてあげるよ」
町娘「この飛び島を作った理由?んー、聞いたけど忘れちゃったな…」
村人「ねぇ!何だかいつもより渦潮が大きくなっていない?」
村人「そう?昨日、雨が降ったからそのせいじゃない?」
陰陽師「この気配はやはり…、私に何かご用でしょうか?」
ファイテン「うわぁ…大きい…どうやったらこんなに大きな渦が…」
百花文(ファイテンさん、渦の見える場所にいるんですか?)
ファイテン「うん、そうだよー。こんなに大きいとは思わなかった」
百花文(その場所から【黒い渦】は見えますか?)
ファイテン「えっ、黒い渦…?ううん、ないけど…もしかして、何かわかったの!?」
百花文(まだ確証はないんですが、気になることがあります)
百花文(地元の住民や陰陽師の方にいろいろと話を聞いていたようですが、ひと月くらい前から少しずつ数が多くなって、渦もしだいに大きくなってきている…)
百花文(と、いうことでしたよね?)
ファイテン「うん、あやかしの数が増えているって話もあったけど、これは人によって、言ってることがまちまちだったかな…」
百花文(わかりました。ファイテンさん、一旦話を整理しましょう)
百花文(とりあえず、戻ってきてください)
ファイテン「はーい、すぐに戻るね!」