第16章 霊山:三途上流

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【逢魔時退魔学園】

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ファイテン「鬼伝承の成り立ち・・・推測ではある、と前置きされましたが、古くからその土地に住んでいた人たち。その人たちの【討伐】に理由をつける為、後から勝手に【鬼】とされたのではないか。そう、習いました」

百花文「私も同じです。だからこそ、鬼を奉っている土地もある、と」

三善先生「あくまで推測の話だ。実情はわからん。だがな、かくりよの大門が開き、伝承があやかしとなって世に現れるようになった」

三善先生「つまり、そうした憶測も形を取った。鬼の言葉は、ただの残滓(ざんし)に過ぎん」

ファイテン「そうですか・・・良かった」

三善先生「良かった、か。お前らしいな」

ファイテン「あの鬼が・・・鵺のように、誰かの想いを捉えたまま、その地に縛られているのなら、討伐して、いいものなのか。悩んでしまいました」

ファイテン「力のある陰陽師にしか見えないのであれば、他の人に害は加えないはずです」

三善先生「だがな、ファイテン。駿河で討伐した【絡新婦】も元はその地にいた人々だった、と考察されることもある」

三善先生「理解できる言葉を話すから。そこに迷いが生じるのであれば、いずれ付け込まれる。そのことを忘れるな」

ファイテン「はい・・・」

三善先生「では、次にお前がやるべきこともわかっているな」

ファイテン「逃がしてしまった大鬼の討伐、ですね」

百花文「えっ!?」

三善先生「気づかなかったのか、百花。傷つけられた鬼だが、逃げているぞ。霊山に流れる川の上流にな」

百花文「ファイテンさん・・・?」

ファイテン「逃がしたわけじゃないんだけどね。でも・・・追えなかった」

ファイテン「三善先生、もう一度行ってきます。あのとき浮かんだ迷いと一緒に、あやかしを断ち切ってきます」

三善先生「黙っていたことは見過ごせんが、まずは決着をつけてくることだ。あの鬼とも、お前の考えとも、な」

【陸奥霊山 三途上流】

霊山2

百花文(・・・・・・)

ファイテン「あの・・・怒ってる?文ちゃん」

百花文(決まってるじゃないですか!あんな大事なことを黙ってて!)

ファイテン「うっ・・・ご、ごめんなさい」

百花文(こういうとき、一緒に悩むのも私の仕事なんですから!)

ファイテン「方位師、じゃなくて、私って言ってくれるの、ちょっと嬉しいな・・・ありがとう」

百花文(はいはい。お礼は大鬼を討伐してからですよ)

ファイテン「そ、そうだね。うん」

百花文(ここから先のあやかしですが、傷ついた鬼が歩いて行ったせいか、鬼の気配が感じられます)

百花文(三体で徒党を組んでいないようですが、気を付けてくださいね)

ファイテン「自分でしたことだもの。ちゃんと私がけりをつけないとね!」

先遣隊「急にあやかしの気配が出てきたな。心当たりはないか?」

侍「この河原に私の息子が・・・いる、わけはないのだよな。なあ、見えないだろう?陰陽師」

先遣隊「この奥から濃い瘴気が漂い始めた。気をつけて進むんだぞ」

【陸奥霊山 三途上流 守護者前】

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???(追ワレ、討タレ)

???(忌ミ名ト共ニ縛ラレル)

ファイテン「本当は、伝承じゃないのかもしれない」

百花文(えっ・・・?)

ファイテン「ほっとしちゃったんだ。伝承の中から生まれた、って聞いてね」

百花文(・・・ファイテンさん・・・)

ファイテン「式姫とあやかしの元は同じ。でも式姫が人に良くないことをしたとき、討伐してこいって言われたらきっとすごく嫌な気分になる」

ファイテン「元は同じはずのあやかしを討伐するのに、そうならないのは勝手だったのかもね」

ファイテン「元が人だったかもしれない。それだけで、鈍るのも同じ・・・」

???(悪・・・王・・・)

ファイテン「ごめんなさい。こちらから勝手にかくりよの大門を開いて。でも、討たせてもらいます。誰かが悲しい想いをしないように」

ファイテン「そして、あの子へ少しでも近づくために!」

【逢魔時退魔学園】

百花 三善

三善先生「戻ったようだな、ファイテン。首尾はどうだ?」

ファイテン「今度こそ、しっかり討伐してきました。ありがとうございます、三善先生」

ファイテン「今回の【修行】の理由。少しだけわかった気がしました」

三善先生「今はあまり語らなくていい。思う所もあるだろう。しっかり休んでおけ。次の試練も、修行になるぞ」

ファイテン「はいっ!」

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吉備校長「・・・話は聞いていたぞ」

三善先生「戻られたのですか、校長先生」

吉備校長「ああ、役人は帰った。幕府との会議も疲れるものじゃな」

三善先生「やはり、真実は明かせそうにないですか」

吉備校長「そうじゃな・・・あれではまだ無理だろう。せめて秘密が漏れないようにせんとな」

吉備校長「かくりよの門は、陰陽師の数だけ開く。つまり陰陽師を根絶やしにすれば、大丈夫。そう考える気の短い者もいるだろう」

吉備校長「陰陽師の保護施設としての退魔学園。その一面は、まだ誰にも教えられぬな・・・」

吉備校長「ワシは万が一に備えてここを開けられん。万が一【攻め込まれた】ときのために」

吉備校長「ファイテンの修行の成果はどうじゃった?鬼の声は届いたかの?」

三善先生「届いたようです。あの子にも、百花にも」

吉備校長「百花とファイテンの相性は思った以上に良いようじゃな」

三善先生「鬼の声が聞こえたのであれば、出羽の霊山で修行をさせた後に・・・?」

吉備校長「ああ、謁見させる必要があるだろうね」

吉備校長「悪路王に・・・」


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