第32章 陸奥:朧夜の居城 その壱

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【逢魔時退魔学園】

伊邪那岐

伊邪那岐(霧に包まれ姿を隠し、すべてを見せずに終わらせる…)

伊邪那岐(それがあいつに託された願い。贖罪だとしても、だ)

伊邪那岐「やはり、誠実ではないな。己の主よ__」

伊邪那岐「久しぶりに声が聞きたくなったな。望めぬ願いとわかってはいるが」

伊邪那岐「…あの娘の声を聞いたからか。己が感傷的になるとは」

………

百花文(随分勝手ですね。みんな…みんな)

………

伊邪那岐「勝手か…方位師よ、それは己が主に言いたい言葉でもあった」

………

伊邪那岐「ふふ、ふふふ…勝手、勝手か。では己も少し好きにさせて貰おうか」

伊邪那岐「主に会いたいと思うことまで縛られてはいないからな」

………

文 伊邪那岐

伊邪那岐(方位師よ)

百花文(急に伝心を繋ぐなんて、なんでもありなんですね…)

伊邪那岐(そう警戒するな。伝えておくことがある。吉備が、あいつが陸奥国へ向かった)

百花文(いずれ、とは言っていましたが、ついに向かわれたんですね…)

伊邪那岐(お前は以前言ったな『勝手だ』と。己もそう思う。皆、勝手に過ぎるな)

伊邪那岐(だから己も我を通そうと思う。協力してくれないだろうか?)

百花文(私が勝手だと言ったのは、伊邪那岐様も含めてですが…)

伊邪那岐(己は残された側だ。己の知らぬ間に__)

伊邪那岐(吉備泉と主の間で話はついていた。万が一のことが起きたらどうするか)

伊邪那岐(己は知らされていなかった。命じられ、後に残されるまで何もな)

伊邪那岐(意趣返しがしたいのだ。勝手ばかりする陰陽師には)

………

百花文(…それは、ファイテンさんにとって良いこと、になるんですよね?)

伊邪那岐(少なくとも黙って解決しようとしているあやつのやっていることよりはな)

伊邪那岐(受け止められるかは器量次第だ。だが__)

伊邪那岐(主の生き写しともいえる姿を見ると、どうしても賭けてみたくてな)

伊邪那岐(あの娘のためにも…)

………

百花文(わかりました、ご協力しましょう。ふふ…意趣返し、ですね!)

伊邪那岐(急にやる気をだしたな、方位師よ。思うところでもあったか)

百花文(ない訳がないですよ!それに、私の名前は百花文です)

百花文(よろしくお願いしますね。伊邪那岐さん)

伊邪那岐(ああ。宜しく頼むぞ、文。)

伊邪那岐(では裏庭にファイテンを呼んでくれ。そこで己から話をしよう)

【逢魔時退魔学園 裏手】

文 ファイテン 伊邪那岐

伊邪那岐「来たようだな」

ファイテン「伊邪那岐さん…?えっと、校長先生に用なら__」

伊邪那岐「いや、違うな。己が今日、出向いたのはお前が理由だ」

伊邪那岐「文に呼び出してもらい、話が、いや頼みごとがしたかった」

ファイテン「私に、ですか?(あれ、今…文、って…)」

伊邪那岐「それに今、お前の言っていた校長先生は、あやつはおらん。単身で陸奥国へと出向いているからな」

ファイテン「陸奥国…悪路王さんと飲みにでもいったかな?」

伊邪那岐「で、あれば良かったのだがな。時に__」

伊邪那岐「来てもらったのは他でもない。その陸奥国へ向かってくれないか?」

ファイテン「それが、頼みなんですよね。私がいかないと…なんですよね」

伊邪那岐(薄々感づいてはいる、か。いや、そうでないはずがない)

伊邪那岐「あやつが向かった城は少し特殊でな。知っているものしか辿り着けぬ」

伊邪那岐「だが、お前の方位師は場所を知っている。事前に聞かされていたからな」

百花文(はい。校長先生から、場所を教わっていました)

ファイテン(文ちゃん!?な、なんで…)

伊邪那岐「ここまで材料が揃っているのだ。結論は自分が出すと良い」

伊邪那岐「準備ができたら陸奥国へ向かえ。心も、身体もな」

ファイテン「……」

【陸奥国 朧夜の居城(おぼろよのきょじょう)】

龍夜の居城

百花文(……)

ファイテン「文ちゃんが、この場所を校長先生から聞いたのはいつくらいだったんだろう。きっと、最近だよね」

百花文(……はい。ファイテンさんが自凝島に遠征したときです)

ファイテン「そっか…うん。そうだったんだ」

ファイテン「本当はね、校長先生の態度や、悪路王さんが消えた頃からなんとなく、わかってたんだよね」

ファイテン「澄姫とまた一緒になれて、でもそれで終わりじゃなくて…」

百花文(あの、その城は__)

ファイテン「気づいているよ。あやかしの気配と、敵意」

ファイテン「だからきっと、そういうこと。先に、進むね」

ファイテン「この先は、また前みたいに伝心も通じなくなりそうだしね」

百花文(そう…だと思います。気を付けて、進んでくださいね)

ファイテン「今まで通りいつも通り。任せておいて!」

ファイテン「ねえ、文ちゃん。もし、ことが終わって、私が__ても…」

ファイテン「私の名前、覚えておいてね?)

先遣隊「ここから先は人の気配がなく、霧も深い。危ないと感じたら無理せず一旦引くのも一つの手であることを覚えておくとよい」

【朧夜の居城 最奥】

ファイテン 悪路王

悪路王「…来たか」

ファイテン「ええ、来ましたよ」

悪路王「それ以外に言葉はない。と言うことか」

ファイテン「去るときに何も言わなかった人に私も何も言うことはありません」

悪路王「ふむ…つまらんな。捨て鉢に成り下がったか」

ファイテン「どう思われても構いません。ただ【かくりよの大門】を通じて力を得て、受肉する。それだけのために」

ファイテン「何もかも最初から、だったんですか?澄姫のことも、私のことも」

悪路王「ほう…散らした記憶、既に集めていたか。吉備も力が相当に減っているな」

悪路王「いや、お前が規格外なのやもしれぬがな」

ファイテン「ふふ…ふふふふふ。ああ、良かったです」

ファイテン「あなたは私の知っている悪路王さんではない。それが分かっただけでも十分です」

ファイテン「初めまして、陸奥の鬼神【悪路王】あなたが私の名前を呼ぶ前に__」

ファイテン「討伐させてもらいます」

【逢魔時退魔学園 裏手】

ファイテン 伊邪那岐

伊邪那岐「刃を交えずとも気づいたようだな。悪路王のことに」

ファイテン「少し話せばすぐにわかりました。私が討伐したのは__私たちと一緒にいた悪路王さんではありません」

伊邪那岐「そうか…では城は朧(おぼろ)に覆われていたのだな」

伊邪那岐「霧に隠された姿の見えぬ月。朧月夜の影のようなもの」

伊邪那岐「あやつが文に教えたのは虚城の方か…何か考えがあって、だとは思うが」

伊邪那岐「城での対話が決裂した際の後詰めのため、か…?」

ファイテン「……」

伊邪那岐「だが、どんな考えがあるにせよ__己の主がいざというときに泉に託したこと。己は見届けなければならない」

ファイテン「……」

ファイテン「伊邪那岐様の主って、私が__」

伊邪那岐「当て推量で決め付けるな。自分の目で確かめて来い」

伊邪那岐「この地で、今も影から見ている百花文__」

伊邪那岐「学園で、お前やあやつの帰りを待っている三善八重__」

伊邪那岐「別邸にて未来を考えている土御門澄姫__」

伊邪那岐「全員と会ったら、ここへ戻って来い。そのときにあの問いを、今一度繰り返す」


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コメント

  1. 匿名 より:

    かくりよのお話が気になって、一気に読ませてもらいました。
    暗めですが、なかなか深く引き込まれるお話ですね。
    とても読みやすく、動画で敵の姿や戦闘も楽しませてもらっています。

    • ファイテン より:

      コメントありがとうございます。
      このゲームはストーリーにこそおもしろさがあると思うので
      後からでも読めるようにブログとして残しています。

      今後の話も気になりますが、とにかく相手が強過ぎるので
      キャラを鍛えつつ地道にやっていくしかなさそうです(笑