第31章 淡路:伊邪那岐神社

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【逢魔時退魔学園】

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百花文「ファイテンさん…伊邪那岐神社、ですか」

ファイテン「文ちゃん。ひょっとして、事前に聞いてた?」

百花文「はい。恐らく次の遠征地はここになるだろう、って」

ファイテン「そっか…準備がいいなあ、校長先生」

ファイテン「学園裏での話も聞こえていたと思うし、とにかくいってくるね」

ファイテン「帰ったら…うん。聞いて欲しいことが一杯あると思うんだ!」

ファイテン「だから、少し遅くまで起きててね」

百花文「…ふふ、わかりました。濃いお茶も、用意しておかないとですね」

ファイテン「それじゃ、いってきまーす」

………

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百花文「全部は、話してなかったですね。でもそれが正解だと思います」

吉備校長「物事には順番があるそれに悪のことが気がかりじゃ。支えの一つであったことは間違いなさそうじゃしな」

吉備校長「この遠征が無事に終われば、ワシは事を確かめに陸奥国へ向かう」

吉備校長「もしものときは…頼んだぞ」

百花文「__はい」

【淡路国 伊邪那岐神社(いざなぎじんじゃ)】

伊邪那岐神社

ファイテン「門は開いていなかったのに、あやかしは結構いるんだよね」

百花文(元々古い伝承のある土地ですし、何かしらの影響があるのかもしれませんね)

ファイテン「…あんまり実感わかないな。母の式姫、っていわれてもさ」

百花文(ご家族の記憶、覚えていないと以前仰ってましたしね…)

ファイテン「あっ!どうしよう!」

百花文(ど、どうかしましたか!?)

ファイテン「なんて呼べばいいのかな!?ちゃん付けとか失礼かな?」

ファイテン「うーん…考えておこう」

百花文(ふふ…ふふふ。そうですね、一緒に考えましょうか)

先遣隊「この神社には伊邪那岐様が顕現しているので、信仰がとても深く、あやかしにも影響を与えているらしい」

行商人「必要なものがあれば、仰ってください。お供え物にもばっちりですよ」

お坊さん「ここを進むと境内になりますゆえ、粗相のないようお願いします」

旅人「ふむ、ここからの眺めもまた良し!わざわざ来た甲斐があるな」

参拝者「この池のほとりを歩いていると、なぜか心が落ち着くのよね」

お坊さん「放っておくとすぐに雑草が生えてしまうから、常日頃から気にかけないと大変なんだ」

和尚「伊邪那岐様はいまここには居ないですぞ。この時間なら池のほとりで休まれているはずです」

巫女見習い「ここのご神木に毎日祈っています。早く一人前の巫女になれるようにって」

巫女見習い「この先は伊邪那岐様が休まれている場所です。今日は誰かを待っているように見えました」

【伊邪那岐神社 池のほとり】

ファイテン 伊邪那岐

???「__来たか」

ファイテン「…な、なんだろう。この雰囲気。威圧感とも違う、けどこれは…」

………

???「自分から話し出すにはまだ辛そうだな。少し手を貸してやろう」

伊邪那岐「己(おれ)の名は伊邪那岐。お前の名は何と言う」

伊邪那岐「いや、どう名乗っているのだ?聞かせてみろ」

ファイテン「わ、私はファイテン、です。伊邪那岐…様」

ファイテン「校長先生…吉備泉から、あなたが私の母の式姫だと聞いてきました」

伊邪那岐「ふ、ふふ…はっはっはっ、そうか。お前の、母の、式姫か。なるほどなるほど」

伊邪那岐「泉もかわらんな。いや、変わらぬことを驚くべきであろうな」

ファイテン「私と会う必要がある。と、手紙に書いてあったと聞きました」

伊邪那岐「相違ない。己がお前を見る必要があった。己を使役している陰陽師のことも含めてな」

ファイテン「__それじゃ」

伊邪那岐「まあ待て、その前にやることがある」

ファイテン「やる、こと…ですか?」

伊邪那岐「来い、ファイテン。少し力をみてやろう」

ファイテン「え、ええっ!」

伊邪那岐「己に与えられた命令は退屈でな。身体を少し動かしておきたい」

伊邪那岐「お前の力も直に見ておく必要がある。なにこの戦いもまた神へ奉納される力競べだ。そう構えることもない」

伊邪那岐「だが、己への奉納品と思い、全力で来い。汚すことは許さんぞ」

ファイテン「わ、わかりました…。いきます!」

【逢魔時退魔学園】

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百花文「おかえりなさい!ファイテンさん!」

吉備校長「戻ったようじゃな。伊邪那岐はどうじゃった?」

ファイテン「そ、それが__」

吉備校長「ふむ。いや、待つがいい…」

………

吉備校長「学園裏に来るんじゃ、ファイテン。少し面白いことになっているようじゃな」

ファイテン「は、はい…あの、多分ですけど…」

吉備校長「ああ、その通りじゃ。伊邪那岐がついてきておる」

【逢魔時退魔学園 裏手】

文 ファイテン 伊邪那岐 吉備校長

ファイテン「あの…」

伊邪那岐「お前が己に見せた力、十分であった。楽しいひと時であった」

伊邪那岐「褒美。という訳ではないが、今後のためもある。かくりよの大門が開いたときのことを語ろう」

伊邪那岐「方位師よ」

百花文(は、はいっ!)

伊邪那岐「伝心を切り、席を外してくれないか」

伊邪那岐「詳しい話は直接聞くといい。友達であるならば」

百花文(…わかりました。あの__)

吉備校長(ワシのことなら気にするな。同じでもあるし、別件でもある)

吉備校長(それよりもこの後のこと、重ねて頼もう。頼んだぞ)

百花文(…はい)

………

ファイテン 伊邪那岐 吉備校長

伊邪那岐「伝心は切れたようだな。では問おう。己の主の娘と名乗る者よ」

伊邪那岐「お前の名前はなんだ?」

ファイテン「私の名前は__」

伊邪那岐「かくりよの大門が開かれたとき、己も主と共に居た」

伊邪那岐「【うつしよ】へと開いた門。外れた閂には替わりが必要だった」

ファイテン「……」

伊邪那岐「生きた身で門を通り【向こう側】へ行った場合、同じ重さのものが遺される」

伊邪那岐「でなければ、生と死の調和も崩れる。なあ__
【あの日生まれた者】よ。今一度問おう__」

伊邪那岐「お前の名前はなんだ?」

ファイテン「……」

………

文 ファイテン 伊邪那岐 吉備校長

ファイテン「お待たせー、文ちゃん!これから戻るね」

ファイテン「校長先生への報告、終わったよ!伊邪那岐さんとの話も!」

百花文(えっ、ファイテンさん!?それに伊邪那岐さん、って…)

ファイテン「次の遠征までは間がありそうだし、しばらくは鍛錬しろってさ」

ファイテン「伊邪那岐さんも手合わせしてくれるっていうし、ちょっと楽しみ。澄姫に自慢しちゃおうかな」

ファイテン「とにかく、今から戻るねー!」

文 伊邪那岐 吉備校長

伊邪那岐(方位師よ。今のファイテンは淡路島前後の記憶が薄れている)

百花文(…は? えっ? はい?)

伊邪那岐(ひしゃげて潰れる前に、泉が散らした。泉のことは聞いたらしいな)

百花文(…はい。ですが、ファイテンさんのことは何も__)

伊邪那岐(そのことは泉も伏せたこと。本人から直接聞くしかない)

百花文(待て、と言うことなんですか。随分勝手ですね。みんな…みんな!)

吉備校長(…すまん)

………

伊邪那岐 吉備校長

伊邪那岐「泉よ。己たちも嫌われたものだな。だが、どこか心地よい」

吉備校長「土御門も百花も、ファイテンを想っての怒り、じゃからな…」

伊邪那岐「ひしゃげて潰れるから、ではないな。お前が記憶を操作したのは」

伊邪那岐「それが、今残っている部分の力か?己は見たことがなかったしな」

吉備校長「さて…もう覚えておらぬな」

吉備校長「話を止めたのは、悪の…悪路王の気配があったからじゃ」

伊邪那岐「残滓(ざんし)は己も感じたが、今は露と消えている」

伊邪那岐「準備が終わった、と勘違いしてくれれば良いのだがな」

………

伊邪那岐「人は見たいものだけ見て、都合の悪いものは敢えて見ないときがある」

吉備校長「今悪路王が居ない理由、ファイテンはまだ向かい合っておらん」

伊邪那岐「自ら片目を与え、一目連と存在を近しくし、各地を巡る陰陽師から力を得る」

伊邪那岐「既に受肉している姿にさらに力を注ぎ、かくりよの門を制した上で降臨する」

………

吉備校長「まずはワシが陸奥国へ向かう。真実はわからぬままじゃしな」

伊邪那岐「甘いな、泉よ。本当に、どこまでもお前はそのままなんだな」


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