【逢魔時退魔学園】
吉備校長「淡路島にかくりよの門が開いたらしいな。早速向かってくれんかの」
ファイテン「ず、随分急にですね」
吉備校長「そうか?門が開くのは今までも前触れは無かったはずじゃが」
ファイテン「いいえ。校長先生の言い方が、です。なんだか懐かしいくらいに」
吉備校長「ははっ…そうか、そうじゃの。今までは前置きが長すぎた」
吉備校長「転送先は文に教えておく。淡路島への遠征を頼んだぞ」
百花文「あっ、は、はい!」
ファイテン「それじゃ、私は準備してくるねー!」
………
吉備校長「文よ、これまで色々とすまなかったな」
百花文「えっ…」
吉備校長「今のうちに伝えておこう。淡路島にかくりよの門が開いたというのは虚言じゃ」
吉備校長「元よりあの地には門は開かぬ。国産みにて最初に造られた島。そのようなものが開く余地はない。例え陰陽師がどれだけ力をつけようと」
百花文「どうして、と聞いて欲しい。であっていますか?」
吉備校長「その通りじゃ。いざというときに方位師まで揺れぬようにな」
吉備校長「転送先をまずは教えておこう。ファイテンを送った後。また、ワシの元に来てくれ。一人でな」
【淡路国 淡路自凝島(あわじおのころじま)】
ファイテン「…文ちゃん、いる?」
………
ファイテン「あの、悪路王さん…?」
………
ファイテン「悪路王さんはこの前からだけど、文ちゃんも…どうしたんだろう」
………
ファイテン「鈴さんの頃は、これが普通。だったんだよね。現地への転送の後は」
ファイテン(…少し、寂しいな)
先遣隊「どうやら今は落ち着いているようだが、何があるかわからない。気をつけろよ」
漁師「しっかり留めておかないと、船が流されちまうことがあるんだ」
漁師「今日は大漁だったな。これも伊邪那岐様のお陰だな」
行商人「ここの人たちとは文だけじゃなくて、たまに物々交換もしてるんだ。何か欲しいものがあるかい?」
町娘「やっぱりここからの眺めは最高よね。ここで釣りもしてみたいのだけど、誰か教えてくれる人いないかなー」
旅人「これだけ大きいと、ただただ圧巻だな。しかし、いったいどうやって作ったのだろうか…」
お坊さん「意外と脇道を通る人が多いので、多少は道を整備しようと考えています」
受付「参拝される方はここで受け付けます。学業、仕事、恋愛など色々とご利益ありますよ」
お坊さん「あやかしはいるけど、かくりよの門が開いたという話は聞いてないな」
和尚「離島だから外部の人はなかなか来なくてな。一度、この地を訪れてもらえれば良さが分かってもらえると思うのだが…」
村人「ん?おれはここで釣りをしているだけだぞ」
巫女見習い「逢魔時退魔学園の方でしょうか?あなたが来たらこの手紙を渡してくれと…」
【逢魔時退魔学園】
百花文「……」
ファイテン「かくりよの門、開いてなかったです。代わりにこの手紙が…」
吉備校長「ふむ。そうか。苦労をかけてしまったな」
ファイテン「校長先生に見せろ、と書いてあります。私では開けられないみたいだし…」
ファイテン「淡路島に遠征した理由、実は手紙を拾って来い、ではないですよね?」
吉備校長「諸々含めて話をしよう。その手紙を持って学園の裏手に来てくれ」
ファイテン「は、はい」
………
ファイテン(文ちゃん、ずっと喋らなかったけど、どうしたんだろう…)
【逢魔時退魔学園裏手】
校長の式「ここで待っていろ、とのことだ」
吉備校長「来たな、ファイテンよ。どれ、少し手紙を見せてくれんか?」
ファイテン「はい。これです」
………
吉備校長「ふむ…まあ、そういうことじゃろうな」
………
吉備校長「聞いておこう、悪はおるか?」
ファイテン「悪路王さんは…少し前から姿を見せません」
ファイテン「帰ってしまった、訳ではないと思うんですが…」
吉備校長「そうか。であれば、良い。ワシのところにも現れんしの」
ファイテン(一日二日じゃないしね…気には、なってはいるんだけど)
吉備校長「ファイテンよ。オヌシの最古の記憶、今一度聞かせてくれんか?」
ファイテン「…陰陽師を目指したきっかけ。最初の記憶は、私を助けてくれた式姫…」
ファイテン「家族のことは覚えていませんが、式姫が助けてくれたことは覚えているんです」
ファイテン「けれど、いくら調べてもその子の情報はどこにも載っていなくて__」
吉備校長「じゃろうな」
ファイテン「えっ…?」
吉備校長「ファイテンよ。家族のことは覚えていない、と言ったな」
吉備校長「では教えよう。お前の母は陰陽師だ。そして、ワシと共に旅をしておった」
ファイテン「……」
吉備校長「考え込む、が、驚きはせぬのか」
ファイテン「…なんとなく、わかっていました。悪路王さんも一緒だったんですよね」
ファイテン「いや、一緒、だとちょっと違うかな?でも__」
ファイテン「校長先生も、悪路王さんも、私にそれを伝えようとしていたと思います」
吉備校長「そう見えておったか…そうか。そうじゃな__」
吉備校長「なるべく重ねないようにしようとしていたが、どこか伝わってしまうもの、じゃな」
ファイテン「私の探していたあの子はもしかして、校長先生か、その人の__」
吉備校長(母、とはすぐに呼べんか。感情の問題であれば良いのだが…)
吉備校長「完全に当たりではない。だが、遠からずじゃ」
吉備校長「全てを知るためには、準備が必要となる。この手紙はその一つ」
吉備校長「オヌシの母が使役していた、いや【使役している】式姫からのものじゃ」
ファイテン「え…えっ!?使役、している…!?」
吉備校長「神世七代に記されし、神の名を持つ式姫。【伊邪那岐(いざなぎ)】の手紙じゃよ」
吉備校長「ワシへの問いと、お前が正しくアヤツの子であれば、会う必要がある__」
吉備校長「そう手紙には記されておる」
ファイテン「私の家族が…?いや、どうして死んだと思って…」
吉備校長「混乱してしまうのもわかる。じゃが、落ち着くより先に動かねばならぬこともある」
吉備校長「学園より【淡路島 伊邪那岐神社】へ遠征し、直に話を聞いてくるのじゃ」
吉備校長「場所は文に伝えておる。既に、な」