第30章 紀伊:神倉山

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【逢魔時退魔学園】

百花 ファイテン 紫乃 澄姫

百花文「【一本だたら】…?それは熊笹王の別名では?」

紫乃「熊笹王は地に基づいた伝承だけど、一本だたらは少し異なるわ」

紫乃「同じような話は各地に残っていて、それぞれ若干異なるのだけれど…」

土御門澄姫「地に縛られず、どこにでも行ける。と言うことね」

紫乃「その通りよ、澄姫」

紫乃「あなたが熊笹王を討伐した峰より場所を移した先__神倉山にある霊石の前に【一本だたら】として現れたらしいわ」

土御門澄姫「一本だたら…そう。そう言うことなのね」

土御門澄姫「私は完全にダシに使われた。気に食わないわね…」

ファイテン「ちょ、ちょっと!私にも教えてよ!」

土御門澄姫「一本だたらの名前は、タタラ師に通じると言われることもある」

百花文「タタラ師と言えば…鍛冶師の方々ですね」

紫乃「そして、鍛冶の神は【天目一箇神(あめのまひとつのかみ)】

紫乃「土地によって呼ばれる別名は【一目連】よ」

ファイテン「あっ!」

百花文「ああっ!」

土御門澄姫「気づいたみたいね。こんなことならあのとき、実家に帰っている場合じゃなかったわね…」

紫乃「今言うことではないわよ、澄姫」

土御門澄姫「けどっ…!」

紫乃「とにかく、神倉山の社にある霊石は神体として祀られているわ」

紫乃「そこに現れたのであれば、神体への成り代わりも考えられる」

土御門澄姫「今頃、本家は上へ下への大騒ぎでしょうね」

土御門澄姫「もちろんそんなことはさせない。させちゃいけないこと」

土御門澄姫「けれど、一目連の血を浴びたのはファイテンだけ…」

紫乃「一目連の血を浴びたことは同時に繋がりを持ったことにもなる」

紫乃「討伐できるとすれば、あなただけなのよ」

ファイテン「わかりました。討伐に向かいます!」

百花文「私も、すぐに転送の準備をしますね!」

紫乃「万が一のことがないように、私と澄姫も補佐に回るわ」

ファイテン「はいっ!」

【紀伊国 神倉山】

上倉山

百花文(そちらは雨が降っているようですが、大丈夫ですか?)

ファイテン「この雨、濡れないんだ…だから大丈夫だよ」

百花文(濡れない雨…?)

百花 ファイテン 澄姫

土御門澄姫「熊野龍神であり、一本だたらでもある一目連__その力の一部が漏れているようね。だから、正確には雨ではなさそうよ」

土御門澄姫「力のある人間にしか見えないし、見える人間には力の源がわかる…」

百花文(そうだとすれば、霊石に居なくとも辿って行けば居場所がわかりそうですね)

ファイテン「でも、霊石からは動いていないみたいだね」

百花文(上倉神社へは石段を登っていくことになりますが、元々参詣道でしたので、入り組んではいません)

百花文(あやかしに注意して進んでくださいね)

ファイテン「うんっ」

………

紫乃 澄姫

土御門澄姫「共に戦えないことが、こんなに悔しいと思わなかった…」

紫乃(今は私たちにできることをするわよ。それまでは泣き言はなし。いいわね?)

土御門澄姫「うん…わかった」

旅人「長い石段だろう?道を外さないように気を付け名よ」

土御門家先遣隊「ここの山頂ではゴトビキ岩をご神体として祀ってある。澄姫さまの手伝いだそうだな。試練を出そう」

旅人「雨…? 何を言っているんだ?」

行商人「この神社は階段が多いところです。怪我には気をつけて下さい」

旅の修行僧「ゴトビキ岩の【ゴトビキ】とは新宮の方言からきているらしい」

旅人「急いで転ぶんじゃねぇぞー!」

旅人「ゴトビキ岩を見た帰りなんだが、なんだか以前と雰囲気が変わったのか?」

神主「ご神体はこの先にあります」

【ゴトビキ岩の祠 一本だたら】

ファイテン 文

ファイテン「これが、霊石…」

百花文(こちらにも力を感じます。霊石の、ですが…)

百花文(さすがは、国造りにまでさかのぼる伝承を持つもの、ですね)

ファイテン「この雨、ひょっとしたら何かを流そうとしているのかな…?」

百花文(漏れ出ている力が雨なら、攻撃方法も雨に由来したものがありそうです)

百花文(属性と攻撃範囲に気を付けてくださいね!)

ファイテン「水属性で広く降る雨…か。うんっ。やってみるよ!」

【逢魔時退魔学園】

ファイテン 紫乃

紫乃「土御門家として礼を言わせてもらうわね。本当に、ありがとう」

ファイテン「いえ、元はと言えば私が原因みたいですし…」

紫乃「いいえ。あなたは悪くない。誰が悪いのか、と言われたら私よ」

紫乃「材料を集めて、ちゃんと考えれば見抜けたはずだもの」

紫乃「一目連も熊野龍神もあなたを呼んでいた。これも同じと考えるべきだったわ…」

紫乃「ごめんなさいね」

ファイテン「そ、そんな」

紫乃(そう。考えればわかること。材料があれば。それなのに__学園を離れたまま静観していたのは、何か理由があるんでしょうね)

紫乃(報せが届かない訳がないもの)

紫乃「せめてもの罪滅ぼしに、あなたと文には何も及ばないように尽力するわ」

紫乃「だから、次の遠征まで二人で身体を休めておきなさい」

紫乃「きっとその頃には、吉備泉も悪路王も戻ってきているから…ね」

ファイテン「はーい!って。悪路王さんも居ないこと、知っていたんですか?」

紫乃(ああ、やっぱり…揃って不在だったのね)

………

紫乃 澄姫

紫乃「話さなくて良かったの?別に止めなかったのに」

土御門澄姫「…妙、よね」

紫乃「そうね、妙だったわ」

土御門澄姫「一目連の企みの最後にしては__」

紫乃「派手すぎたわね。神体に成り代わるなら、もっと静かにもできたはず」

土御門澄姫「止められずならそれで良いが、止められることが前提とも見える」

紫乃「あの雨も、まるで自らの存在を知らしめているようだった」

土御門澄姫「一本だたらを倒した後もあの雨は続いているわ」

土御門澄姫「結局、今回のことで一目連が力を得たことは間違いのないことなのよね」

土御門澄姫「その先に何があるのか見破る為にも、もっと私も力を磨かないと…」

紫乃「__それは、報告書をちゃんと仕上げてからよ?」

土御門澄姫「ぐっ…わ、わかってるわよ!」

……同時刻……

悪路王 吉備校長

悪路王「己が居なくなった後を試してみたくなったのか?」

吉備校長「そうではない。ただ__あやつらが先に進むためには、これも必要なことじゃ」

悪路王「全てを見通して、それでいてなお姿を隠していたのはそれが理由か」

吉備校長「教え子に頼れ、といったのはオヌシじゃろうよ、悪」

悪路王「しかし『先に進むため』か。遂に決心がついたと見える」

吉備校長「今しばらく見守っていたかったが、仕方あるまい」

吉備校長「新たな常夜の境も出現しておるようじゃし__あの子を中心に動いている事態が多すぎる」

吉備校長(悪よ。オヌシの企みも含めてな)

悪路王「知る覚悟と先に進む力のため、向かわねばならぬだろう」

悪路王(泉よ。お前のことも含めてな)

吉備校長「淡路島にある【伊邪那岐神社(いざなぎじんじゃ)】ワシの親友であり、あの子の母が使役していた式姫のいる場所が__ファイテンの次なる遠征先となろう」

吉備校長(そして、そこに導くことが、ワシにできる最後のことかもしれんな)


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