【逢魔時退魔学園】
百花文「【一本だたら】…?それは熊笹王の別名では?」
紫乃「熊笹王は地に基づいた伝承だけど、一本だたらは少し異なるわ」
紫乃「同じような話は各地に残っていて、それぞれ若干異なるのだけれど…」
土御門澄姫「地に縛られず、どこにでも行ける。と言うことね」
紫乃「その通りよ、澄姫」
紫乃「あなたが熊笹王を討伐した峰より場所を移した先__神倉山にある霊石の前に【一本だたら】として現れたらしいわ」
土御門澄姫「一本だたら…そう。そう言うことなのね」
土御門澄姫「私は完全にダシに使われた。気に食わないわね…」
ファイテン「ちょ、ちょっと!私にも教えてよ!」
土御門澄姫「一本だたらの名前は、タタラ師に通じると言われることもある」
百花文「タタラ師と言えば…鍛冶師の方々ですね」
紫乃「そして、鍛冶の神は【天目一箇神(あめのまひとつのかみ)】
紫乃「土地によって呼ばれる別名は【一目連】よ」
ファイテン「あっ!」
百花文「ああっ!」
土御門澄姫「気づいたみたいね。こんなことならあのとき、実家に帰っている場合じゃなかったわね…」
紫乃「今言うことではないわよ、澄姫」
土御門澄姫「けどっ…!」
紫乃「とにかく、神倉山の社にある霊石は神体として祀られているわ」
紫乃「そこに現れたのであれば、神体への成り代わりも考えられる」
土御門澄姫「今頃、本家は上へ下への大騒ぎでしょうね」
土御門澄姫「もちろんそんなことはさせない。させちゃいけないこと」
土御門澄姫「けれど、一目連の血を浴びたのはファイテンだけ…」
紫乃「一目連の血を浴びたことは同時に繋がりを持ったことにもなる」
紫乃「討伐できるとすれば、あなただけなのよ」
ファイテン「わかりました。討伐に向かいます!」
百花文「私も、すぐに転送の準備をしますね!」
紫乃「万が一のことがないように、私と澄姫も補佐に回るわ」
ファイテン「はいっ!」
【紀伊国 神倉山】
百花文(そちらは雨が降っているようですが、大丈夫ですか?)
ファイテン「この雨、濡れないんだ…だから大丈夫だよ」
百花文(濡れない雨…?)
土御門澄姫「熊野龍神であり、一本だたらでもある一目連__その力の一部が漏れているようね。だから、正確には雨ではなさそうよ」
土御門澄姫「力のある人間にしか見えないし、見える人間には力の源がわかる…」
百花文(そうだとすれば、霊石に居なくとも辿って行けば居場所がわかりそうですね)
ファイテン「でも、霊石からは動いていないみたいだね」
百花文(上倉神社へは石段を登っていくことになりますが、元々参詣道でしたので、入り組んではいません)
百花文(あやかしに注意して進んでくださいね)
ファイテン「うんっ」
………
土御門澄姫「共に戦えないことが、こんなに悔しいと思わなかった…」
紫乃(今は私たちにできることをするわよ。それまでは泣き言はなし。いいわね?)
土御門澄姫「うん…わかった」
旅人「長い石段だろう?道を外さないように気を付け名よ」
土御門家先遣隊「ここの山頂ではゴトビキ岩をご神体として祀ってある。澄姫さまの手伝いだそうだな。試練を出そう」
旅人「雨…? 何を言っているんだ?」
行商人「この神社は階段が多いところです。怪我には気をつけて下さい」
旅の修行僧「ゴトビキ岩の【ゴトビキ】とは新宮の方言からきているらしい」
旅人「急いで転ぶんじゃねぇぞー!」
旅人「ゴトビキ岩を見た帰りなんだが、なんだか以前と雰囲気が変わったのか?」
神主「ご神体はこの先にあります」
【ゴトビキ岩の祠 一本だたら】
ファイテン「これが、霊石…」
百花文(こちらにも力を感じます。霊石の、ですが…)
百花文(さすがは、国造りにまでさかのぼる伝承を持つもの、ですね)
ファイテン「この雨、ひょっとしたら何かを流そうとしているのかな…?」
百花文(漏れ出ている力が雨なら、攻撃方法も雨に由来したものがありそうです)
百花文(属性と攻撃範囲に気を付けてくださいね!)
ファイテン「水属性で広く降る雨…か。うんっ。やってみるよ!」
【逢魔時退魔学園】
紫乃「土御門家として礼を言わせてもらうわね。本当に、ありがとう」
ファイテン「いえ、元はと言えば私が原因みたいですし…」
紫乃「いいえ。あなたは悪くない。誰が悪いのか、と言われたら私よ」
紫乃「材料を集めて、ちゃんと考えれば見抜けたはずだもの」
紫乃「一目連も熊野龍神もあなたを呼んでいた。これも同じと考えるべきだったわ…」
紫乃「ごめんなさいね」
ファイテン「そ、そんな」
紫乃(そう。考えればわかること。材料があれば。それなのに__学園を離れたまま静観していたのは、何か理由があるんでしょうね)
紫乃(報せが届かない訳がないもの)
紫乃「せめてもの罪滅ぼしに、あなたと文には何も及ばないように尽力するわ」
紫乃「だから、次の遠征まで二人で身体を休めておきなさい」
紫乃「きっとその頃には、吉備泉も悪路王も戻ってきているから…ね」
ファイテン「はーい!って。悪路王さんも居ないこと、知っていたんですか?」
紫乃(ああ、やっぱり…揃って不在だったのね)
………
紫乃「話さなくて良かったの?別に止めなかったのに」
土御門澄姫「…妙、よね」
紫乃「そうね、妙だったわ」
土御門澄姫「一目連の企みの最後にしては__」
紫乃「派手すぎたわね。神体に成り代わるなら、もっと静かにもできたはず」
土御門澄姫「止められずならそれで良いが、止められることが前提とも見える」
紫乃「あの雨も、まるで自らの存在を知らしめているようだった」
土御門澄姫「一本だたらを倒した後もあの雨は続いているわ」
土御門澄姫「結局、今回のことで一目連が力を得たことは間違いのないことなのよね」
土御門澄姫「その先に何があるのか見破る為にも、もっと私も力を磨かないと…」
紫乃「__それは、報告書をちゃんと仕上げてからよ?」
土御門澄姫「ぐっ…わ、わかってるわよ!」
……同時刻……
悪路王「己が居なくなった後を試してみたくなったのか?」
吉備校長「そうではない。ただ__あやつらが先に進むためには、これも必要なことじゃ」
悪路王「全てを見通して、それでいてなお姿を隠していたのはそれが理由か」
吉備校長「教え子に頼れ、といったのはオヌシじゃろうよ、悪」
悪路王「しかし『先に進むため』か。遂に決心がついたと見える」
吉備校長「今しばらく見守っていたかったが、仕方あるまい」
吉備校長「新たな常夜の境も出現しておるようじゃし__あの子を中心に動いている事態が多すぎる」
吉備校長(悪よ。オヌシの企みも含めてな)
悪路王「知る覚悟と先に進む力のため、向かわねばならぬだろう」
悪路王(泉よ。お前のことも含めてな)
吉備校長「淡路島にある【伊邪那岐神社(いざなぎじんじゃ)】ワシの親友であり、あの子の母が使役していた式姫のいる場所が__ファイテンの次なる遠征先となろう」
吉備校長(そして、そこに導くことが、ワシにできる最後のことかもしれんな)