第40章 肥後:火の山

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【逢魔時退魔学園】

吉備校長「九州全体の気温が上昇していることは、百花から聞いたな?」

ファイテン「はい」

吉備校長「ファイテンが出かけたのと時を同じくして、爆発的な熱波が九州を襲ったのじゃ」

吉備校長「そして驚くべきことに、蔓延していた瘴気は一切消えた」

ファイテン「じゃあ、九州で起こっていた反乱は…」

吉備校長「それはまだ収拾できておらん。一度始めた争いはすぐに収まるものではないからの」

吉備校長「して、その瘴気と熱波の関連なのじゃが_熱波の源となったあやかしの話からした方が良いじゃろうな」

吉備校長「百花、先ほど話してくれたことをもう一度説明してくれるか?」

百花文「はい」

百花文「恐らく、熱波の原因となったあやかしは、【火魂】という、鬼火の仲間です」

百花文「伝承の中ではあまり大きな力を持ってはいないはずですが、幽世の影響を受けて種々の能力を身につけたと思われます」

百花文「古い文献で見つけたのですが_昔、海沿いの集落で鬼火のような炎が目撃された後、その炎が大きな熱を発し、辺り一帯を火の海にした…そのような話が記されていました」

ファイテン「じゃあその、鬼火のような炎が火魂で、辺りを焼いたのも…」

百花文「ええ、火魂の仕業だと思います」

百花文「話の中で最も重要な点は、その集落はいつも争いが絶えなかったという点です」

吉備校長「ここが、今回の件とも共通しておる点じゃ」

吉備校長「九州で蔓延していた瘴気は、人の感情の中でも憎しみを増幅させるものじゃった」

吉備校長「それが、瘴気が消えると同時に、九州全体を覆う程の熱波が襲った」

百花文「はい、恐らく伝承の中の火魂は、理由は不明ですが幽世の影響を受けており、争いから生まれる憎しみを食み、己の力とし大きな熱を生み出したと考えられます」

ファイテン「じゃあ、つまり…」

吉備校長「同様のことが九州で起きた、という線が濃厚じゃろうな」

吉備校長「諍いを引き起こす瘴気を放ち、人々の間の憎しみを増幅させる…」

吉備校長「それを食んだ火魂が力を蓄え、一気に九州全土に熱波を出した」

吉備校長「危険なのは、まだ各地の暴動は鎮圧されていない、ということじゃ」

吉備校長「瘴気は引いても、憎しみは増え続ける。つまり…」

ファイテン「火魂は更に力を増す、ということですね」

吉備校長「うむ。考えたくはないが、九州全土を…いや、ひいては日本全土を_火の海にしようとしておるのかもしれぬ」

吉備校長「実際に現れた幽世のことを考えると、そう大袈裟な仮説でもないのじゃ」

ファイテン「現れた幽世…桜の木の向こう、ですね」

吉備校長「そうじゃ。肥後に出現した幽世は、火の山」

吉備校長「火魂の力で、幽世の地一帯を火で覆ってしまったのじゃろう」

ファイテン「それほどの力を持ったあやかしなら、絶対に現世に来させるわけにはいきません」

ファイテン「それに、急がないと更に力をつけてしまう…」

ファイテン「校長先生、文ちゃん、調べてくれてありがとう!」

ファイテン「私、急いで幽世側に行ってくるよ」

百花文「はい!また新たに分かったことがあれば、伝心でお伝えしますね!」

【火の山】

ファイテン「予想してたことだけど…」

百花文(はい…)

ファイテン「本当に火の山…というか、解けた鉄の塊みたいなのが周りに…」

百花文(それは恐らく岩漿(がんしょう)ですね。西洋ではマグマ、と呼ばれています)

百花文(ファイテンさん…熱くないですか?)

ファイテン「あ…熱いよ!火の山だよ!?熱いに決まってるよ!」

百花文(そうですよね…)

百花文(私、今ほど自宅待機の方位師であったことに、感謝したことはないかもしれません)

ファイテン「文ちゃん、正直過ぎる感想をありがとう…」

ファイテン「でも、直感だけど、澄姫はここにはいないと思うなぁ。熱過ぎるもん」

ファイテン「特別な理由でもない限り幽世内を移動してると思う」

百花文(…同感です…)

ファイテン「うぅ…子供の頃からかなり過酷な場所で修行してきたつもりだったけど…この熱気は本当に、身体に応えるなぁ…」

百花文(…!!)

百花文(もしかして…)

ファイテン「ん?」

百花文(私はずっとファイテンさんの方位師をしてますから_ファイテンさんの身体が、どれ程常人離れしてるか知っているつもりです)

ファイテン「えっと、褒めてるのかな…?」

百花文(そのファイテンさんをしても、身体に応えると言わしめる炎…)

百花文(普通の炎ではない、つまり実際に、何かが燃えている炎ではないかもしれません)

百花文(試しに、陰陽の御守りを、頭上にかざしてみてくれませんか?)

ファイテン「こうかな?」

ファイテン「…え?」

ファイテン「熱さが弱まった…!」

百花文(あやかしの発した熱ですから、その御守りが和らげる働きをするのでしょう)

百花文(元が火魂によるものですから、当然のことです。もっと早くに気づくべきでした、ごめんなさい)

ファイテン「ううん、助かったよ!この熱には辟易してたからね!」

ファイテン「でも、この炎が現世へ出ていったら、大変なことになるね」

ファイテン「よーし、早く火魂を見つけるね!」

少女「うーん…今回の試練はこんなものかしらね。…え?今、目があったような…」

少女「…………み、見えてるの?」

【火の山 火魂の祠】

ファイテン「ここに火魂がいるんだね。とうとう見つけた!」

ファイテン「火魂を倒せば、九州も涼しくなる!」

百花文(涼しくなる…まぁ、間違ってはいないですが…)

ファイテン「うぅ…早く帰ってかき氷でも食べたいなぁ」

百花文(陰陽の御守りで和らいだといっても、やっぱり熱いんですね…)

ファイテン「うん、一刻も早く戻りたいくらいね」

ファイテン「ここに澄姫はいなかったし、手がかりもなかったし…」

ファイテン「早く火魂を倒して、別の場所を調査した方がいいよね!」

ファイテン「早速行って来るよ!」

百花文(ちょっと待ってください、相手は大きな九州をも熱波で包む力の持ち主です)

百花文(どうやって戦うか、何か戦略を立てた方が…)

ファイテン「うーん、確かにそうだね」

ファイテン「戦略戦略…あ」

ファイテン「火を使うあやかしだからさ、水をかける!」

百花文(う、うーん。まぁ、理屈ではそうですね)

百花文(残念ながら、文献にも火魂の弱点は載ってませんでしたから_)

百花文(火には水、単純ですが、基本的な戦術が効くかもしれません)

ファイテン「だね!よーし、じゃんじゃん水をかけるよ!!」

ファイテン「本当に水が効いたね…!」

百花文(はい…!どうやら現世側の熱波も引いたようです)

ファイテン「本当!?良かったー!この辺りはまだまだ暑いけどね!」

田野久「またおぬしか…!」

百花文(あ…)

ファイテン「げっ!」

田野久「げ、とはなんじゃ!武士に対し、無礼であるぞ!」

ファイテン「ご、ごめん。つい…」

百花文(すみません…)

田野久「は!この声は…!」

田野久「文殿か…!」

ファイテン(ばれちゃったね…文ちゃん)

百花文(あ…は、はい…)

田野久「コ、コホン…して、ご機嫌いかがかな?文殿」

渠師者「田野久…お前は何をしにここへ来たのだ…?」

田野久「親分!?」

渠師者「火魂の山に人間が入ったから、見に来てみれば…」

渠師者「またお前か…」

ファイテン(同じ台詞だ…)

百花文(ですね…)

田野久「ああ!親分!火魂がやられたようです!」

渠師者「なに?」

渠師者「田野久の時といい、邪魔ばかりしてくれるな」

渠師者「一体、お前の目的は何だ?」

ファイテン「目的は、前も言ったように、澄姫を見つけることだよ!」

ファイテン「それから、幽世の害を止めること」

渠師者「ふむ…」

渠師者「あの、くだらない者どもを守るのか」

渠師者「瘴気を流して憎しみを生み、火魂を使い業火で焼いてやろうと思っていたが…」

渠師者「まぁ良い。今回はお前の力を認めよう」

ファイテン「ちょっと待って…!」

ファイテン「あの瘴気も、各地の暴動も、今回の熱波も…お前が仕組んだのか!?」

渠師者「だったらどうすると言うのだ?」

渠師者「争いは、もとより人間の好むところだろう?」

渠師者「それが力ある者によって懇意的に作られた争いでもな…!」

渠師者「憎しみの瘴気は人間の心の裡(うら)の業火となり、火魂の力となった」

渠師者「瘴気が餌としたのは元来お前たちが持つ憎悪の念だ」

ファイテン「人の感情を餌にした…?」

渠師者「無論だ。お前ら人間を利用して何が悪い」

渠師者「考えることを放棄し、力ある者が何をやっているのか知ろうともしない」

渠師者「お前も例外ではないだろう?幕府を、自由にさせているではないか?」

ファイテン「そんなこと__」

渠師者「ない、と言い切れるのか?」

渠師者「お前はわかっていない。お前が戦うべきは幽世ではない」

渠師者「事実、お前はその身に常夜を宿しているではないか」

ファイテン「!!」

渠師者「…澄姫とかいう娘を見つけたい、だったな」

渠師者「娘は生きている。だが、現世へ戻る気はないようだぞ」

渠師者「まあ、その意志はあったとしても、あの身体では無理かもしれんが…」

ファイテン「それはどういう意味…!」

渠師者「もしお前が再び幽世を訪れるなら、会えるかもしれん」

渠師者「田野久、戻るぞ」

田野久「へい!親分!」

渠師者「親分と呼ぶなと…!」

田野久「すいやせん!」

田野久「っは!文殿…!聞いていらっしゃるか!?」

田野久「またお目にかかれることを、この田野久、楽しみにしているでござる!」

田野久「では、さらば!」

渠師者「田野久、お前…まさか…」

渠師者「…恋をしたのか?なぁ、たのきゅー」

田野久「親分、そのあだ名はやめてくんなせえ」

渠師者「すまん。だが…」

渠師者「…女には…気をつけろよ」

ファイテン「………」

百花文(………)

ファイテン「すごい話を聞いた後だけど、なんていうか…」

ファイテン「最後のあれ、なんだったんだろ…」

百花文(ですね…)

【逢魔時退魔学園】

吉備校長「まずはよくやった。九州の熱波は引き、暴動も順に沈静化しているそうだ」

吉備校長「ともすれば新たな場所で幽世が現れるとも限らぬが_瘴気と熱波の問題は解決した。九州は一旦大丈夫と言って良いだろう」

吉備校長「問題は、土御門のことじゃな」

ファイテン「はい…」

吉備校長「渠師者の言とはいえ、はっきりと無事がわかったのは吉報じゃが_自らの意志で帰って来ないとなると…」

百花文「何か理由があるのでしょうか?」

ファイテン「もちろんそうに決まってるよ!」

ファイテン「澄姫が理由もなく…戻らないなんて、ないよ」

吉備校長「…そうじゃな」

吉備校長「土御門の本意を確かめる為には、やはりもう一度幽世へ赴き、本人を見つけるしかない」

吉備校長「こうなっては、先ほどの言と幾分矛盾するが、別の地で幽世が現れるのを待つしかないな」

ファイテン「そうですね」

ファイテン「現世に被害が出る時は、私が真っ先に源を断ちますから!」

吉備校長「…うむ」

ファイテン「あれ…?」

ファイテン「そういえば三善先生は?一度戻った時も、姿が見えなかったですが…」

吉備校長「……」

吉備校長「それがな。八重は、幕府へ赴いたまま、まだ帰らぬのだ」

ファイテン「え…」

百花文「学園から何度も使いを出しているのですが、まだ何もわからない状況です…」

ファイテン「八重さんが…?」

渠師者「お前はわかっていない。お前が戦うべきは幽世ではない…」

ファイテン「八重さん…」


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【筑後龍神】

吉備校長「幽世が出現したので、まさかとは思っておったが…」

ファイテン「どうしました?」

吉備校長「筑後国に流れる筑後川には、昔から【輝龍】と呼ばれる龍神がおってな」

百花文「輝く龍、ですか」

ファイテン「神々しい見た目なんですか?それなら願い事も叶えてくれたりして…」

吉備校長「こらこら、勝手な妄想を膨らませるな。実際は、真逆じゃ」

ファイテン「えっ…」

吉備校長「強すぎる光ゆえにな、近づいて無事に戻った者はおらんと伝わっておる」

吉備校長「じゃからこそ、陰陽師達の手で祠を作り、その光を封印しておったのじゃが…」

吉備校長「幽世の瘴気の影響、もしくは、九州を覆った熱波の影響か」

吉備校長「元来は人間がむやみに近づかぬ限り、無駄な殺生はしない気性じゃったが_どうも狂暴性を増しているようでな」

ファイテン「なるほど…」

吉備校長「封印が解かれる心配はしておらぬから、無理に挑まずともよい」

吉備校長「じゃが、幽世の影響を受けた龍神がどのような変異を遂げているのか」

吉備校長「今後現れる幽世やあやかしの為に、知っておいた方が良いかもしれんと思っての」

ファイテン「なるほど、ではきちんと準備した後、挑んでみます」

吉備校長「うむ。じゃが、強くなったとはいえ、一人で挑むような真似はしてはならぬ。他の陰陽師と共に挑むようにな」

ファイテン「わかりました!」


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コメント

  1. たかしゃ より:

    急にすみません。最近youtubeを見始めた者です。wotの更新はもうなさらないんですか?

  2. つねさん より:

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