【逢魔時退魔学園】
百花文「先生、かくりよの門は開かれたのですか?」
三善先生「ああ。鵺の誘いかもしれんが、ファイテンの門も開かれた」
三善先生「場所は、鵺の湖畔のさらに奥地だ。十分な準備をして、向かって欲しい」
百花文「ファイテンさん・・・」
ファイテン「大丈夫、きっとね。私は方位師を作ってくれた校長先生と、文ちゃんを信じるだけだから」
百花文「はい。心・・・しておきます」
三善先生「人の想いはその地に留まる。それを知り得るのは、一部の者だけだ。私や他の者が同行すれば、想いを散らしてしまうかもしれない」
三善先生「託して申し訳ないとは思う、だが頼んだぞ、ファイテン」
ファイテン「はいっ!」
【遠江国 鵺の湖畔 深部】
ファイテン「蛍は記憶、想い。それがこれだけ多くいるってことは・・・」
百花文(はい・・・長い時間、何度も何度も・・・なのでしょうね)
少女の声『ありがとう、ここまで来てくれて』
ファイテン「えっ!?」
百花文(どうしました・・・?)
少女の声『この奥に、鵺がいるわ。でも、まずはかくりよの門を閉じないと・・・』
ファイテン「・・・はい、そうします」
少女の声『私の想い、恐怖に憑依した鵺は、その後・・・』
少女の声『守護者の鵺の首を持ってきてちょうだい。そうすれば、姿を現すはずよ』
ファイテン「鵺の首。ですね。覚えておきます」
少女の声『鵺の身体は土地との結びつきが強い。一度この地を離れたら、霧と消えるわ、覚えておいて』
少女の声『それから、私の散り散りになった記憶が書物となってとなって集まっている場所がある』
ファイテン「あなたの、記憶・・・?」
少女の声『大事な、大切な修行の記憶だけど、あげるわ』
少女の声『使ってちょうだいね・・・お願い』
百花文(・・・誰かと話している、ということは、そういうことなんでしょうね・・・)
少女の記憶「そう…吉備さんと、三善さんがね。少し嬉しいかな」
少女の記憶「不公平よね…あやかしって、蛍やこの庭には何もしないの。私たちには襲い掛かってくるのにね…」
少女の記憶「蛍がきれいね。でも、この中のいくつが、私の記憶から生まれたあやかしかしら?」
行商人「ここに居て欲しい。居てほしかった。だから、連れて来たの」
少女の記憶「左手があなたのかくりよの門。右手は…その後よ」
少女の記憶「鵺のいるかくりよの門は孤島にあるわ」
少女の記憶「この先よ…この先に、門が…」
【遠江国 鵺の湖畔 守護者前】
百花文(かくりよの門、ですね)
ファイテン「うん。まずはここから、だね」
百花文(鵺は様々な動物が一体となり、文献によって姿が異なります)
百花文(四つ足、鳥、蛇。混ざり合った姿で出てくるでしょう。雷獣、とする説もありますから、雷も警戒した方が良さそうです)
ファイテン「負けてられないよ、ここではね!」
少女の記憶「この地を離れると、鵺の首は消えてしまうわ。…帰られるだけ、羨ましいけれど…」
【遠江国 鵺の湖畔 鵺の記憶前】
・・・・・・辺りは不気味なほど静まり返っている。
少女の声『こわい、いたい、どうして』
少女の声『そんな気持ちだけを、吸われ続けた。何度も、何度も』
ファイテン「・・・・・・」
少女の声『あなたは良いわね・・・万が一があっても、その【ほういし】の力があるから』
少女の声『なぜわたしが、だれかきて、どうして』
少女の声『でも考えようによっては、あなたを倒し続ければ、何度でもその気持ちを、私も味わえるのよね、他人の絶望を』
ファイテン「・・・・・・」
少女の声『武器を構えたわね。それじゃ・・・お願い。私の、遠い遠い妹弟子』
【少女への報告】
ファイテン「鵺の記憶、討伐してきました」
少女の声『うん。ありがとう・・・私も、これでようやっと解放されたわ』
少女の声『色々と恥ずかしいところも見せちゃったけどね』
ファイテン「いえいえっ、そんなことは!」
百花文(やっぱり声が聞こえるのは、ファイテンさんだけみたいですね・・・)
少女の声『けれど、かくりよの大門を閉じないかぎり、あいつは存在し続ける』
少女の声『これ以上力をつけることはないけれど、気分がいいものではないわね』
ファイテン「う・・・・・・そうなんですか」
少女の声『もっとも、あいつがいるかぎり、私もここに残っているのだけどね』
少女の声『大門のこと、任せたわよ。私では届かなかった分も、ね』
ファイテン「はいっ!」
少女の声『気が向いたらまた来るといいわ。少しだけ、試練を出してあげる』
ファイテン「うっ・・・それは、それで・・・」
少女の声『そんな顔するんじゃないわよ。・・・改めて、ありがとうね。遠い遠い・・・私の妹弟子さん』
【逢魔時退魔学園】
三善先生「・・・戻ったか」
ファイテン「はい。守護者も、記憶も、どちらも」
ファイテン「鵺の記憶を討伐したとき、その中からあの人の気配が消えたことを感じました」
ファイテン「鵺の記憶はかくりよの大門を閉じるまでそのままかもしれません。けれど、あの人が囚われたまま。ということは、無いと思います」
三善先生「そうか、そう・・・か」
三善先生「ありがとう、ファイテン。本当に、ありがとう・・・」
ファイテン「八重さん・・・」
三善先生「お前ならば、まだ先に進めるだろう・・・」
三善先生「次の遠征地は、恐らく【陸奥国】になる。雪に包まれた城や、大霊山。あやかしの質も全く異なるだろう」
三善先生「伝承の鬼が人を虐げている土地もある。幕府が押さえ込んではいるが、な」
三善先生「だから・・・」
三善先生「ちゃんと、帰ってくるのだぞ。次の、そのまた先の遠征も」
三善先生「いつか、私が踏み入れなかった先に進んだときも、な」
ファイテン「はいっ!」