【逢魔時退魔学園】
悪路王「渦潮に、温泉か。あのときは愉快に思ってしまったが__」
吉備校長「ファイテンが自らどこかへ行きたい、と願うのは…」
吉備校長「学園からの試練や、土御門を追っている以外では初めてじゃったな」
………
吉備校長「反省はしておるよ。後悔もな。じゃが__」
吉備校長「陰陽師としての力以外の部分。それこそ年頃の娘らしい生活は…八重が十分に面倒を見てくれていたようじゃな。今では安心しておるよ」
悪路王(「十分」かは別の話だがな)
吉備校長「今にして思えば、あの子をそのまま、大門を開くための鍵、そして__」
吉備校長「向こう側に行った『あいつ』と入れ替えるための形代、いや、あえて生贄と呼ぼうか」
吉備校長「ワシらがそのように扱っていては、彼女に怒られていたじゃろうな」
悪路王「いや、怒られるだけではすまんな。あいつのことだ__またすぐに向こう側へ行くため、準備を始めてしまうかもしれん」
吉備校長「ははは、なるほどその通りじゃ」
………
悪路王「四国の門はどうするつもりだ。吾は知らぬと伝えたが」
吉備校長「鬼に言を翻せとは言わぬ。ワシから伝えよう」
吉備校長「【幽世側】から開いた門。誰にも閉じられぬ門」
悪路王「恐らくは__」
悪路王「阿弖流為のもう一つの策。もし志半ばで自分や泉、それに…ファイテンが歩を止めても、幽世との繋がりを作り」
吉備校長「あわよくば、彼女がこちらに戻るための手がかりとしたかった。じゃろ」
悪路王(『自殺の手助けをするつもりはない』か。あれも相当甘かったな…)
………
吉備校長「文にはすでに伝えてある。【伊予国 隠身の砦跡】でかくりよの門の情報を集めろ、とな」
悪路王「砦跡となると、なるほど。あの妖怪に会わせるか」
吉備校長「定期的に閉じられている門じゃ。あの妖怪絡みは間違いないと見ている」
吉備校長「四国遍路を逆うちする行程中とはいえ、会う分だけなら問題なかろう」
吉備校長「ワシも面識はない大妖怪。あの狸と面会してもな__」
【伊予国 隠身の砦跡(かくりみのとりであと)】
ファイテン「校長先生からの話だと、ここでかくりよの門の情報集め、だっけ?」
百花文(はい、そうなります。他に詳しいことは何も…)
ファイテン「でも、ここに門の雰囲気はないよね。あくまで情報集めってことかな」
百花文(とはいえ、現地の方が門の情報を持っているとは思えませんし__)
百花文(先遣隊の方が情報を持っていれば、それは学園に届いているはずです)
ファイテン「と、なると…ここに『誰か』がいるんだろうね」
百花文(でしょうね…)
ファイテン「他に聞いていること、あるかな?」
百花文(砦への入り口は落石で封じられてしまっています)
百花文(砦の中に入るには、大回りして裏から入る必要があるとのことです)
ファイテン「…情報を集めろ、というのに、砦への入り方かあ」
ファイテン「やっぱり、誰かいることは間違いなさそうだね」
百花文(誰かさんの城址のように威圧感はありませんし…)
百花文(無理しないように進んでくださいね)
ファイテン「ふふっ。わかった!」
先遣隊「この奥の森であやかしが多く発生しているらしい。気をつけて進んでくれ」
旅人「崩れた砦というのも趣があるな」
行商人「空気が綺麗だな。一つ見ていかないか?」
旅人「そこの川で飲める水は美味しいぞ。しかし、いい場所だなここは」
旅人「日の光が気持ちいいな。君もここで休むといい」
旅人「ここには日光浴をしに来る人が多くいるらしいぞ。君ももしかしてそうなのかな?」
武士「川に反射する日の光が、幻想的で綺麗なんだ。川をみかけたら、見ていくといいぞ」
旅人「歩き疲れちまったな。どこか水でも飲める場所をしらないかい?」
旅人「そういえば、どこかの川を渡ると砦の中へ入れるらしいぞ」
お坊さん「あやかしの気配があると聞いてこの地を訪れたが…とても綺麗な場所だ。あやかしがいるとは考えたくないものだな」
武士「奥の川に小舟があったが、誰かが乗ってきたのだろうか」
【隠身の頂】
ファイテン「……」
???「……」
???「この地に足踏み入れし陰陽師よ。お主の名はなんと言う」
ファイテン「あ、わ、私はファイテンです!」
???「では問おう。吾輩の名は?」
ファイテン「えっ…?」
???「吾輩は誰だと聞いているのじゃ。知らぬはずはないのう?」
ファイテン「その…!た、たぬ…」
???「いや、皆まで言わずとも構わぬ。大体のところは伝わったぞ」
???「吾輩を誰かも知らぬ陰陽師が、偶然ここに至る訳がないのう」
???「確実に、知っているはずじゃ」
ファイテン「いや、でも、その…」
???「お主だとは言っておらぬよ。お主を、ここに遣わした者のことじゃて」
???「戻って話を聞いてくるが良い。吾輩の名と、伝承をのう」
???「そして、お主を遣いに寄越した相手にこう伝えておくのじゃ」
???『煮て食えないなら贄ではないのう。大野ヶ原を任せられるのだな?』と__
ファイテン「は、はい…」
【逢魔時退魔学園】
吉備校長「して、収穫はあったのかの?」
ファイテン「あの…狸、が居ました」
百花文「はい、狸でしたね…」
吉備校長「それ以外は?」
ファイテン「吾輩の名前がわからないなら、聞いてこい、と言われて…」
吉備校長「まあ、その態度も無理はないか」
吉備校長「隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)こういえばわかるか?」
百花文「…あっ!」
ファイテン「でも、犬ってより狸…」
百花文「ファイテンさん、その字じゃないです。隠神とかいていぬがみ、ですよ」
吉備校長「狸という感想に間違いはないがの。オヌシらがあったものの名は隠神刑部」
吉備校長「齢千年を超え、それ相応の力を持つ、八百八狸とも呼ばれる大妖怪じゃ」
ファイテン「あっ。やっぱり知ってたんですね」
吉備校長「心当たりだけじゃがな。面識はワシにもない」
吉備校長「かくりよの門についての話は聞けなかった、ということで相違ないか?」
ファイテン「えっと__『煮て食えないなら贄ではないのう。大野ヶ原を任せられるのだな?』と言伝を受けました」
吉備校長「なるほど、な。ではワシと悪から説明しよう。此度のかくりよの門について」