【逢魔時退魔学園】
三善先生「ファイテン、まずは落ち着け」
三善先生「すぐに続報が入るはずだ。行くのは詳細を待ってからに…」
ファイテン「待ってられませんよ！澄姫が…！」
ファイテン「澄姫が居た場所に幽世が現れたって…」
ファイテン「私、すぐに出発します。文ちゃん、転送して＿＿」
ファイテン「あれ？文ちゃんはどこに…」
紫乃「文なら今、私を呼びに来たわ」
ファイテン「紫乃さん！？」
百花文「澄姫さんのことなら、紫乃さんが一番ご存知だと思いまして」
三善先生「英断だ。陰陽師の状態はその方位師が最も把握しているからな」
ファイテン「そ、そっか！さすが文ちゃん！で、澄姫は…！」
紫乃「…伝心が切れたわ。現地調査の途中でね」
ファイテン「切れたってことは、やっぱり幽世に…？」
紫乃「……」
紫乃「恐らく、ね」
三善先生「土御門は幽世に入れなかったはずだが…」
三善先生「自ら入ることができたのか？でもどうやって？」
三善先生「それとも…」
百花文「考えたくはありませんが、そういった事が可能なあやかしが現れたか…でしょうか」
ファイテン「そういった事…？」
百花文「今は現世と幽世が繋がっている状態です」
百花文「出入りするあやかしの中に、誰かを幽世に引きずり込めるものがいる可能性も＿あるかもしれません。あくまでも悪い事態の想像ですが」
ファイテン「幽世側に引きずり込む…」
ファイテン「だったら猶更、早く現地に行かないと！」
吉備校長「まあ待て」
吉備校長「八重の言う通り、情報もないまま行っても徒労に終わり危険が高いぞ？」
吉備校長「本気で助けたいなら、ちゃんと確度の高い情報を持ってゆけ」
ファイテン「でも…」
吉備校長「落ち着け。その情報を待っておる、と言っておるのじゃ」
ファイテン「え？」
吉備校長「土御門が調査しておったのは筑前。そこで幽世が現れたと聞いて、すぐに他の報せがないか調べた」
吉備校長「現地からは他にも情報が入っておっての。それによると＿幽世に至る入り口は、どうやら筑前から消えたようじゃ」
ファイテン「消えたって、それじゃ幽世には…」
吉備校長「そう焦るな。別の入り口はもう見つけておる」
吉備校長「幽世と現世の帳が、捩れておるのか何なのか、判然とせんが、肥前で入り口が出現した」
ファイテン「肥前、ですか。じゃあそこから幽世へ行けるんですね！」
ファイテン「すぐに…っ…あ…」
ファイテン「私また…すみません。他に現地の情報はありますか？」
吉備校長「よいよい。徐々に自分で踏み留まれるようになれればの」
吉備校長「情報はそれが全てじゃ。どうかの？勢い込んで出発せんで良かったじゃろう」
ファイテン「う…はい。ありがとうございます」
吉備校長「うむ。伝えるべきことは伝えた。もう出立して良いぞ」
吉備校長「すぐにでも駆けつけてやってくれ。九州のこと、オヌシにばかり任せるようで心苦しいが＿＿」
ファイテン「そのことはもう言わないでください。私は構わないですし、納得してますから」
ファイテン「それに今は、澄姫を助けたいですし…」
紫乃「私からもお願い。澄姫のこと、頼んだわ」
紫乃「向こうで会ったら、方位師の許可なく幽世なんて行くなバカ！って伝えておいて」
ファイテン「わかりました」
紫乃「こっちでも澄姫の行方を探すから、何かわかったら連絡するわね」
ファイテン「それじゃ、行ってきます」
百花文「くれぐれも、気をつけてくださいね。ファイテンさんに何かあっては＿＿」
ファイテン「大丈夫、文ちゃん。絶対に無理はしない」
ファイテン「危なくなったら帰還する。そして…何度でも幽世へ行く」
ファイテン「澄姫を助け出すまで」
百花文「わかりました。では私もそのつもりで見守っています」
百花文「私の判断で帰還させることも覚悟しておいてください」
ファイテン「うん。ありがとう」
ファイテン「では、行ってきます！」
三善先生「気づかない間に随分と成長しましたね」
吉備校長「方位師ともどもな」
三善先生「はい。百花の表情もどこか大人びてきました」
吉備校長「うむ。この状況では頼りになる限りじゃが、心苦しくもあるな」
吉備校長「ワシ達はワシ達のやるべきことをやるか」
三善先生「そうですね」
【肥前国 虹の松原】
ファイテン「……」
百花文（ファイテンさん？ずっと警戒していても消耗してしまいますよ）
百花文（あやかしと遭遇する時は遭遇するんですから、いつも通りにしていた方が良いかと）
ファイテン「…ふぅっ！文ちゃんの言う通りだね」
ファイテン「あれこれ考えちゃって、体に力が入ってたみたい」
百花文（仕方ありませんよ。私が注意しているので安心してください）
ファイテン「ふふっ、ありがとう文ちゃん。頼りにしてるね」
百花文（どういたしまして）
ファイテン「それにしても、やっぱりここも豊前と同じような瘴気が漂ってるんだね」
ファイテン「古代の戦場から流れる瘴気だから、だと思ってたけど＿＿同じ瘴気が肥前でも流れてる…」
百花文（こちら側に流れ出ているものは薄まってますから小さな諍いを起こすくらいで済んでますが）
百花文（瘴気が濃くなって、その影響が強くなった時のことを考えると、怖いですね）
ファイテン「…うん」
ファイテン「早く幽世へ行って澄姫を見つけ、あやかしをやっつけちゃわないとね！」
百花文（そうですね。でも気をつけてください）
百花文（豊前同様、幽世の入り口からあやかしが出て来ているようです）
ファイテン「うん！まずはその入り口を探すよ！」
先遣隊「綺麗な所だ…たまには景色でも眺めて休憩していくといい」
旅人「昔はここも通れた気がしたが、塞がってしまったか…」
旅人「昔はここも通れたが…何？俺に似たやつを見ただと…？そいつは…」
行商人の娘「さっきね、母さまを見たの！でも、前にお空から見守ってるって言ってたのに…」
行商人「娘が亡くなった妻を見たと言うんだ…昔三人でよく来ていたから思い出しているのかもな…それはそうと、何か買ってくか？」
ファイテン「ここが幽世の入り口か…」
百花文（はい。洞窟を抜けると幽世のようです）
ファイテン「なるほど…」
百花文（ファイテンさん、その近辺のことで新しい情報が入っているので＿＿一旦戻って来ていただけますか？）
ファイテン「……」
百花文（…ファイテンさん？）
百花文（どうしましたか？…まさか、瘴気に＿＿）
ファイテン「澄姫…？」
百花文（え…？）
ファイテン「洞窟の向こうに…あっ…消えた」
ファイテン「文ちゃん！私、ちょっと探して来る！」
百花文（ファイテンさん、ちょっと待ってください！）
ファイテン「でも澄姫が…！早くしないと見失っちゃうよ！」
百花文（大事な話がありますから、一旦戻って＿＿）
ファイテン「帰ってたら見失う！私、行って来＿＿」
百花文（落ち着きなさい！）
ファイテン「……つ！」
百花文（ファイテンさん…恐らく、今見えたのは澄姫さんじゃありません）
ファイテン「え！？そんなの見間違えるわけないよ…あれは確かに澄姫…」
百花文（それも含め、お伝えしたいことがあります）
百花文（戻って来てください。ファイテンさん）
百花文（お願いですから…）
ファイテン「…わかった」
