第39章 肥前:吉野ヶ里遺跡

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【逢魔時退魔学園】

吉備校長「戻ったか」

百花文「校長先生、ファイテンさんは…」

吉備校長「大抵のところは察しがつく」

吉備校長「土御門の姿を見かけたのじゃろう…?」

ファイテン「なんでそれを…?」

吉備校長「調査隊から奇妙な報告を受けておったでな」

吉備校長「幽世の入り口近くで、そこにおるはずのない人間を見かけた者が複数…」

ファイテン「いるはずのない人…?」

吉備校長「左様。目撃された人間は大抵が現地の封鎖に行っておる者じゃが、目撃されたときには任についておらず、他所におったと言う」

吉備校長「何者かが偽物となり現れたのか。もしくは幽世が見せた幻影か…」

百花文「目撃情報の中には、澄姫さんの姿もあったそうです」

百花文「しかし調査隊の中で澄姫さんを知る人が声をかけても、返事もせずに行ってしまったようで…」

ファイテン「だから私が澄姫を見かけた時、違うって…」

百花文「はい。あの時にお伝えせずにすみません」

ファイテン「ううん。きっと頭に血が上って受け入れられなかっただろうから」

吉備校長「その情報が来た時に、一旦戻らせようとしたのじゃが_間に合わなかったようじゃ。すまぬ」

吉備校長「何も知らずに見てしまった時のオヌシの動揺は想定しておったのにな」

ファイテン「いえ、私は大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます」

百花文「ファイテンさん…」

ファイテン「っと言ってみたものの、やっぱり応えたみたいです…」

ファイテン「駄目ですね…すぐに取り乱してしまって」

ファイテン「自分の心の弱さが嫌になります」

吉備校長「人間は見たいものを見るものじゃ。何かを探している時は特に_自ずと心の裡に探すものを何処かに見てしまうのかもしれん」

吉備校長「そのような心の有り様を利用するあやかしが居たとて不思議ではない」

ファイテン「心の有り様を利用するあやかし…」

吉備校長「ちと休んで行ってはどうじゃ?土御門が心配なのはわかるが、万全の状態で臨まんと、オヌシも危ういぞ」

ファイテン「…大丈夫です。すぐに出られます」

百花文「ファイテンさん、本当ですか?」

ファイテン「文ちゃん、心配かけてごめんね。でも、私が見た澄姫は偽物だった…」

ファイテン「だから一層思ったんだ。早く本物の澄姫に会いたいって」

百花文「わかりました」

ファイテン「じゃあ、行ってきます!」

ファイテン「幻影じゃなく、あやかしの仕業だったら、容赦なく倒してやりますから!」

吉備校長「うむ。気をつけてな」

【筑前国 吉野が里遺跡】

 

ファイテン「ここが幽世…なんだかおかしな建物が沢山あるね」

百花文(幽世側は時間の流れが異なる場所ですから、かなり昔の時代が現出しているのでしょう)

ファイテン「…う。瘴気が濃くなっている」

ファイテン「この奥にきっと、壇ノ浦のように瘴気の源となっているあやかしがいるんだね」

百花文(恐らくは…残念ながら文献や報告からは_最奥にいるあやかしについては分かりませんでした)

百花文(校長先生の推測もありますし、出来れば突き止めたかったのですが…すみません)

ファイテン「大丈夫だよ!奥まで進んだら、どっちみち分かるんだから!」

ファイテン「それに、一度澄姫を見せられちゃったからね。もうどんなあやかしを見ても驚かないよ」

百花文(私も見ていますから)

ファイテン「うん、ありがとう!じゃあ行ってきます!」

【墓地 深部】


ファイテン「え…あれ…?さっきここに人形がいたはず…」

土御門 澄姫?「何よ、何か文句でもある?」

ファイテン「澄姫…!?喋ってる…ってことは、本物?」

土御門 澄姫?「人の顔じろじろ見て、無礼な子ね」

ファイテン「ん…?」

ファイテン(何かおかしい…)

土御門 澄姫?「あんた誰なの?」

ファイテン「…!」

百花文「ファイテンさん、様子が変です。それは恐らく…」

ファイテン「澄姫の偽物だ!お前、正体を現せ!」

???「な、何をする!無礼であるぞ!」

ファイテン「人形…!?あれ?でも変だ。勝手に動いている!」

???「拙者の女形を見抜くとは…お前、あの娘の知り合いか?」

ファイテン「澄姫を知ってるの!?」

???「知っているも何も、拙者は実際に見た者の芝居しか出来ぬ」

???「それにしても、一体どういうわけなのだ?」

???「昨今こちらへ来る人間が増えておる。生きた人間がな」

ファイテン「…やっぱり幽世に来たんだ。澄姫は今どこにいるの?」

???「随分と活きの良い娘だったぞ」

ファイテン「だった…?澄姫に何かあったの!?」

???「しまった。喋り過ぎたわ」

???「…おぬし、謀ったな!」

ファイテン「え…?」

百花文(どういうことでしょう?)

???「武士に謀(はかりごと)とは良い度胸。しかしその悪知恵、すぐに後悔させてやるぞ」

ファイテン「悪知恵って、そっちが勝手に喋ったんじゃ…」

???「なにぃ?おぬし、自らの行いを認めない上に、口答えまでするか!」

???「そんな者は、あ、あ、あ、許すまじ~!」

???「長いわ!」

???「へ、へぇっ!」

???「田野久(たのく)!お前は話が長い!」

田野久「申し訳ございませんっ!親分!」

???「親分と呼ぶな!族長と呼べ!」

田野久「へぇっ親分!」

???「だから…」

田野久「それより親分、また人間が入ってきましたぜ!」

田野久「しかも若い娘ですけぇ!」

???「…お前、また訛ってるぞ」

田野久「ひゃあっ!おら、ちぃとばかし気を抜くとお国の言葉が出ちまうんだぁ!」

ファイテン(おら…!)

百花文(最初、拙者って言ってましたよね…)

???「田野久、落ち着け。動揺して更に訛ってる」

田野久「あ!間違えとったっちゃ!ここは九州、この訛りやったっちゃね!」

田野久「どこで開くか教えてくれんかったけん、間違えてしもーとった!」

???「……」

ファイテン(あ、怒らせた…)

???「俺の名前は渠師者(いさお)だ」

百花文(…無視することに決めたようですね)

渠師者「聞こう、娘。お前はここへ何をしに来た?」

ファイテン「私は…友達を探しに!」

ファイテン「それから、辺りに漂っている瘴気の源を倒しに!」

渠師者「ほう、お前のことだぞ田野久」

田野久「っは!」

ファイテン(あ、キリっとした!)

渠師者「目的の一つ、田野久はここにいるが、お前ごとき小娘に勝てるかな?」

田野久「無理かと!」

渠師者「うるさい!お前が言うな!」

渠師者「それから、探しに来たのは澄姫という娘か?」

ファイテン「そうだ!」

渠師者「その望みは、叶わないだろうな」

ファイテン「な…!」

渠師者「田野久、相手をしてやれ。片付けたらすぐに戻って来るんだぞ」

田野久「御意」

ファイテン「ちょっと!どういうことか説明しろ!澄姫に何をした!?」

渠師者「何も」

渠師者「俺は今忙しいんだ。手が離せないんでな」

ファイテン「ま、待てっ!」

田野久「待つのは貴様でござる!」

田野久「まさか貴様が拙者を狙って来たとはな!とんだ曲者でござる!」

ファイテン「どいて!通しなさい!」

田野久「拙者、ここを通すわけには、あ、あ、あ、いかぬのだ~!」

田野久「いざ、勝負!」

【逢魔時退魔学園】

ファイテン「結局、あの田野久とかいう奴を倒しても、澄姫の居場所はわからなかったね…」

百花文「そうですね。何か知っているのは確実なんですが…」

田野久「やあやあ、拙者の話かな?こちらでも我が名が知れ渡るとは嬉しい限り」

ファイテン「田野久…!どうしてここに!?」

田野久「何を驚く。おぬしとて、あちらに来たではないか」

田野久「拙者、元々はこちら側のあやかし。おやぶ…族長の為に幽世におるが_行き来するのは自在のこと」

百花文「…!」

百花文(ファイテンさん、この方から、瘴気が出ていた、そうでしたよね?)

ファイテン(そうだけど…!?今は何の瘴気も感じられない…!)

百花文(…!?ファイテンさん、あの…あそこ)

ファイテン「…あ!」

田野久「ん…?何をじろじろ見ておる。ああ、これか」

田野久「これはな、贈り物だ。拙者が現世に行くと言ったら女子がくれたのじゃ。拙者も隅に置けん男でな」

ファイテン「それは…陰陽の御守り」

百花文(手作りの物のようですね。その御守りの力で、瘴気がでないのでしょう)

百花文(特殊な瘴気に対応している物ですから、持っている人も限られています)

ファイテン「ということは…」

百花文(作ったのは紫乃さん。そして渡した女子というのは澄姫さんでしょう)

ファイテン(田野久が現世へ姿を現せば、瘴気の影響がかなり広まるから…)

百花文(それを懸念して、渡しておいたのでしょう。それに私達が気づくことも予想して…)

百花文(つまり…澄姫さんは無事です!)

ファイテン(よかった…)

田野久「おぬしら、何をこそこそ話しておる?」

百花文「あの、その御守りを送ってくれたのは、どんな女性ですか?」

田野久「む?そうじゃな。器量は良いし、元気じゃな」

田野久「元気過ぎる面もあるが…特に拙者に対する言動は無礼千万_」

田野久「っは!また喋り過ぎたわ!」

ファイテン(絶対に澄姫のことだね…)

百花文(元気なようで良かったです…澄姫さん)

田野久「こそこそ話をするでない!拙者も会話に加えんか!」

田野久「ん…?ややっ!これは…!」

百花文「え…!?」

田野久「拙者ともあろう者が、今まで気づかなかったとは。不覚」

田野久「なんと麗しく、そして慎ましやかな女子じゃ…」

田野久(カタ…カタカタカタッ…!)

ファイテン(ええええ!?今の何?)

ファイテン(人形みたいな動き…!)

百花文(ファイテンさん、人形ですよ!)

田野久「…!」

田野久「おぬしら、今、人形って言ったけ?」

百花文「…え?」

田野久「おらのこと、人形って呼んだべ!?」

田野久「切ねえ…!切ねえべ!」

田野久「好きな娘っ子に人形と呼ばれる程、切ねえことはねえっぺ!」

百花文「えええ…!」

ファイテン(好きっていつから…って、今!?)

田野久「親分、おら悔しい、切ねえべ。…うっうっう…!」

ファイテン(泣いてる…)

百花文(どうしましょう、ファイテンさん…)

ファイテン(う、うーん。初めての事態だからなんとも…)

田野久「切ねえけども、そこから這い上がるのが男ってぇもんだ」

田野久(ガチャリッ!)

田野久「拙者の男ぶり、しかと見ておれ!」

ファイテン(突然キリッとした!…忙しい人だね)

田野久「拙者、この度はおぬしに申したいことがあって参った!」

ファイテン「はい…」

田野久「拙者との戦いに勝ったからといって、己が強いなんぞと思わぬことだ!」

田野久「我が主はおぬしなんぞよりももっと強いぞ!」

田野久「イ・イ・キ・ニ・ナ・ル・ナ・ヨ!」

ファイテン「えぇ…っ!(なってない…!)」

田野久「言いたいことはそれだけじゃ」

田野久(…チラッ)

ファイテン(あからさまに文ちゃんの方を見てる…)

田野久「…おぬし、ちとよいか?」

ファイテン「え?あ、うん」

田野久「もっとこっちへ寄れ…!」

ファイテン「こ、こっち?」

ファイテン「これでいいかな?」

田野久「うむ。単刀直入に尋ねる。まず、あの娘の名は何という?」

ファイテン「文ちゃんのこと?百花文、だけど…」

田野久「ももかふみ殿…美しい名じゃ。して、文殿には許嫁などはおるか?」

ファイテン「直接話せばいいのに…」

田野久「ば、馬鹿者!」

田野久「武士たるもの、そう簡単に己の想いを口には出せんのじゃ」

ファイテン(べつに告白と言ったわけじゃ…っていうか、もう知られてるのに気づいてない!?)

田野久「…はぁ。拙者はこれより幽世へ戻る身。文殿にはしばらく会えぬのう」

田野久「おぬし、ファイテンと言ったか」

ファイテン「あ、うん」

田野久「拙者に勝つとはなかなかの強者じゃ」

田野久「拙者がこちらへ来ずとも、おぬしとは幽世でまた会うかもしれんの」

田野久「その時はまた手合わせ願おう。さらば!」

百花文「田野久さん…帰られましたか」

ファイテン「うん」

百花文「九州…いえ、幽世のあやかしはあのような方ばかりなのでしょうか?」

ファイテン「そうだったらどうしよう…」

ファイテン「…できれば次出会うのは、喋らないあやかしがいいな」

百花文「…そうですね」


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