【逢魔時退魔学園】
吉備校長「結論から言ってしまえば、その門は悪の言っていた【四国が沈む】原因じゃ」
ファイテン「結論を言ってくれないことは今まで多かったですが、結論だけ出されても訳がわかりませんね!」
吉備校長「……」
悪路王「かくりよの門は、かくりよとこちら側をつないでいる門だ」
悪路王「かくりよの門は、陰陽師の力に応じて開く、であったな」
百花文「はい。式姫という力を、かくりよから得ているせいではないかなと考えています」
吉備校長「かくりよとの門は、今はそうして開くのが主な原因じゃが、例外的に、この門は【幽世側】からの呼びかけによって開かれておる」
吉備校長「特定の陰陽師に応じている訳ではないので、誰も閉じることは適わないのじゃ」
吉備校長「完全には、な」
百花文「今までの話からすると、その特別な門は大野ヶ原にある、ということですよね」
吉備校長「ああ、その通りじゃ」
悪路王「そして隠神刑部はあの土地を、城を護る大妖怪」
悪路王「自らの縄張りに開いた門を定期的に閉じている様子がある」
悪路王「陰陽師に依らぬからこそ、ではあるが、その狸の力あってこそでもあるな」
吉備校長「じゃがそのせいで、四国全体の力の流れが変容しておる」
ファイテン「変容…」
吉備校長「渦巻く海、渦潮のように、その門を中心に何もかも引き寄せられておるのじゃ」
吉備校長「いずれこのまま放置すれば、この門は愛比売(えひめ)を残し、四国を吸い込んでしまうじゃろう」
吉備校長「そうなる前に、門を完全に閉じる必要があるのじゃ」
ファイテン「完全に…ですか。でも__」
ファイテン「私ならできる、ということですよね。閂であった私なら」
吉備校長「…うむ」
ファイテン「悪路王さんも、知らぬと言いながらこの辺までは知っていた、ですよね?」
悪路王「……」
………
ファイテン「まったく!過保護ですね!二人とも!」
悪路王「か……ほ、ご…?」
ファイテン「そこまで心配されなくても、私は大丈夫です!」
ファイテン「というか__隠したまま、何かを伺うのは本当になし、ですよ!」
吉備校長「うっ…」
ファイテン「澄姫も悪路王さんも、校長先生も文ちゃんも、みんなみんな、です」
吉備校長「……」
ファイテン「行ってきます。大野ヶ原に。その隠神刑部さんとも話をしに」
ファイテン「だから、三人ともちょっと反省すること!いいですね!」
百花文「はっ、はい」
悪路王「…ああ、そうだな」
【伊予国 大野ヶ原】
隠神刑部「思ったよりも早かったのう。話は聞けたかの?」
ファイテン「ええ、隠神刑部さん。かくりよの門の話も聞きました」
隠神刑部「話を聞いてなお、さん付けか。礼儀がなっておらぬのか、それとも__」
ファイテン(文ちゃん、来る途中に教えてもらった伝承だけど…)
百花文(はい。隠神刑部は非常に強い力を持っていますが、人に対してはあまりいい感情を抱いていないかもしれません)
隠神刑部「おっと、聞こえておるぞ?麗しの声を持つお嬢ちゃん」
百花文(うるわし…)
隠神刑部「吾輩が嫌うのは…いや、違うの。無関心なのは、この地以外の全てよ」
隠神刑部「ここに開いた門を閉じることで力が捻じれているのは気付いておる」
隠神刑部「このままでは、島が愛比売を残して沈んじまうことも含めてのう」
ファイテン「なら__」
隠神刑部「それが、どうしたというのじゃ?」
隠神刑部「ここを放置すれば土地に災いをもたらすことは間違いのないもの」
隠神刑部「それを、守護者である吾輩が放置することは有り得ぬ、有り得ぬよ」
隠神刑部「吾輩は自らの守れる範囲を守る。それ以外は、悪いが二の次じゃ」
隠神刑部「二兎を追って取り逃がすなら、一兎だけでも確保する」
隠神刑部「冷たい、など思うなよ。妖怪の守護者はそんなものよ」
隠神刑部「いや、妖怪に限らぬな。土地を守ると言い出したにも関わらず自らの欲で国を巻き込む、お家騒動なぞを起こす人間も出会った」
………
隠神刑部「そう暗い顔をするな。話には続きができたさ」
隠神刑部「この門はお主なら完全に閉じることができるのじゃろう?」
ファイテン「…はい」
隠神刑部「それなら何も問題は無い。お主がやられてしまわない限りはの」
百花文(力を貸したりなどは__)
隠神刑部「まだ熟さぬ器持つ、麗しの声の嬢ちゃんよ…」
百花文(う…ん?)
隠神刑部「それは不要なことじゃ。なぜなら、吾輩だけでも大きな問題は無いからの」
隠神刑部「これもまた、吾輩にとっては、手段の一つに過ぎないのじゃよ」
旅人「ここまで広い草原だと走り回りたくなりますよね。え、そうでもないですか?」
先遣隊「鍾乳洞の中から異様な空気が放たれている。用心して進んでくれ」
武士「草原の各地に亀裂が入っていて危ない状態だ。梯子がかけられている場所以外は危ないから降りられないぜ」
行商人「鍾乳洞の深部に向かっているんですか?準備は是非ここでしていってください」
武士「梯子の昇り降りは疲れるな…どこか休憩できる場所を知らないか?」
旅人「あまり人の入らない場所だったんで、何かいい鉱石でもと思ったが、これ以上深くに進むのは危険な気がするな…」
【鍾乳洞 狭窟】
(オォ…お…ォォォォ…)
隠神刑部「…ほう。気づいたようじゃの。門を閉じられる者が現れたことの」
ファイテン「この声…門の守護者、ですよね」
隠神刑部「そうじゃ。名を牛鬼。元々は山に棲んでいた妖怪よ」
隠神刑部「吾輩ほどの力は無かったものの、山伏によって倒されその血は大地を流れ、いくつもの淵を作ったとされた妖怪じゃ」
隠神刑部「じゃが、コヤツはすでに変質してしまっておってな」
ファイテン(八握脛と似た雰囲気を感じる…これも、変質のせいなのかな?)
隠神刑部「牛鬼の伝承はもう一つ、海から上がってくるものもある」
隠神刑部「元々は山に現れる牛鬼だったものを、何度も倒すうち流れ込む力に伝承が交じり、今ではすでに違うものと化したのじゃ」
ファイテン(元の言い伝えから、変わった、ううん、変えられた妖怪)
………
隠神刑部「随分と急いでここに向かったようじゃが、聞いておこうかのう…お主は本当に四国を沈めたくないのか?」
隠神刑部「このまま見過ごしたとして、それは責任のあるものではないぞ」
隠神刑部「ここで倒れるやもしれぬ危険を冒す理由は何じゃ?」
ファイテン「………」
ファイテン「四国を実際に訪れて、ここにいる人たちに触れました」
ファイテン「そしてこの島には、大切な人との思いでもある。そう考えると沈めたくない。絶対に沈めない。私の思い出の土地として」
ファイテン「そんな、胸を張れない理由かな。本当に、正直に言えば、ですが」
隠神刑部「…正直じゃな。そして、多分に自分勝手じゃ」
隠神刑部「じゃが、吾輩にとっては好ましい、何よりも納得のできる答えじゃな」
隠神刑部「見届けてやろう、ファイテン。この隠神刑部が、お前の言葉を」
ファイテン「はいっ!」
【逢魔時退魔学園】
ファイテン「大野ヶ原の門を閉じてきました。しばらくは残滓がありますが、徐々に力の流れ込みはなくなるはずだ、と言っていました」
吉備校長「隠神刑部がそう言ったなら間違いのないことじゃろうな」
ファイテン「ですが__」
………
隠神刑部「これで門は大丈夫そうじゃな。いやはや、本当に閉じられるとは」
隠神刑部「吾輩には及ばぬが…ふむ」
(ぱん、ぱん!)
隠神刑部「ほほう、いいものを持っておるではないか…!」
ファイテン「…ぱんぱんと腰やお尻を触らないでください」
隠神刑部「妙な誤解をするなよ?これはあくまで器を確かめておるだけじゃ!」
隠神刑部「それ以上の意味は断じて持っておらぬ!持っておらぬからな」
ファイテン「器…ですか?」
隠神刑部「それとなく、四国を巡らされておるようじゃからな」
隠神刑部「ちと確認したが、逆うちの効果はしっかりと張りに現れておる」
ファイテン「は、はあ…?」(張り…?)
隠神刑部「四国霊場の力も受け、器が拡張されて、力が秘められておるな」
隠神刑部「これだけのし…」
ファイテン「し?」
隠神刑部「器であれば、流れに引かれたものも討伐できるかもしれぬな」
ファイテン(なんだか、段々と口調が変わってきているような…)
………
ファイテン「隠神刑部さんが言うには、まだ続きがある、と」
ファイテン「海より出るものを討伐しない限り、危機は続くとのことでした」
吉備校長「ふむ…なるほど」
隠神刑部「さん付けを許可した覚えはないんじゃがのう」
(ぱん、ぱん)
ファイテン「ひゃっ!?」
隠神刑部「ちぃと出向いてやったのに、何の歓迎もなしとは__」
隠神刑部「力を発揮し過ぎたやもしれんのう。ふっふっふっふっふ…」
吉備校長(…結界を気取られずに、破壊せずに、潜り抜けるか__さすがは隠神刑部、じゃな)
隠神刑部「そう警戒するな。張らぬ器を持つ小娘よ」
吉備校長「小娘…じゃと。それに、張りとはどこを見て言っておる」
隠神刑部「お主の力の流れじゃ。熟れてはおるが、張り切っておらぬ。そうじゃろう?」
吉備校長「む…な、なるほど」(引っかかる言い回しじゃのう)
隠神刑部「力からしてお主がここの頭目じゃろう。今日は話をしに来たのじゃ」
隠神刑部「力がねじ曲がったせいで生まれた、海より現れるアレについてな__」