【逢魔時退魔学園】
三善先生「次の試練だが・・・少し今までとは異なったものになる」
百花文「含みがありますね・・・何か変わった試練なのでしょうか?」
三善先生「今回の遠征先は【駿河国】の【蟲毒の社】だ」
ファイテン「かくりよの門を閉じればいいんですよね?今までと変わらないような・・・」
三善先生「この土地だがな、実はかくりよの門ではないのだ」
ファイテン「えっ!?」
三善先生「かくりよの門より現れたあやかしは人をあまり襲わない、それは今までで知ったな?」
百花文「はい。もちろん、そうじゃないのもいますけど、基本的にはそうでしたね」
三善先生「だが、ここは少し事情が異なる。元々は土蜘蛛を祀っていたのだが、【かくりよの大門】が開いた直後、溢れた瘴気で土蜘蛛が変質したのだ」
三善先生「・・・その社にいた人間全てを犠牲にしてな」
百花文「全て、ですか・・・」
三善先生「そうだ。もともと地元の人間しか知らぬような社だったため、幕府が秘密裏に処理を行った」
三善先生「かくりよの門より溢れてくるあやかしも、いつこうなるかわからない。今後のこともある、遠征して確認してくるといい」
ファイテン「はい・・・わかりました」
百花文「あの、三善先生」
三善先生「どうした、百花」
百花文「土蜘蛛の討伐はされなかったのでしょうか。幕府が出てきたのなら・・・」
三善先生「長い信仰の後、力を付けたあやかしだ。討伐しても、何度も復活してきてな・・・幕府も、今では役人を一人、入り口においているだけだ」
三善先生「だが、討伐するごとに瘴気が薄まることは確認されている、頼めるか?」
ファイテン「もちろんです!」
三善先生「土蜘蛛は強い力を持つが火に弱い。属性をよく考えるんだ。また、この遠征は利根の領域を超える。出てくるあやかしもさらに強力だ。力不足だと感じたなら、装備や自身の強化。式姫の強化のために鍛錬を積むのだぞ」
ファイテン「わかりました」
三善先生「最後になるが蟲毒の社では、生きている人間は誰一人として確認されていない」
三善先生「入り口で見張っている役人以外は、な」
ファイテン「誰一人として・・・」
三善先生「いるのは、一度命を失ったものを、土蜘蛛が信仰の為に傀儡(くぐつ)
にしている者だ。心を、揺らさぬようにな。信じているぞ、ファイテン」
【駿河国 蟲毒の社】
ファイテン「静かだね、文ちゃん」
百花文(そうですね。風の音以外、何も聞こえません)
ファイテン「三善先生は・・・心を揺らすな・・・って言ってたけど、大丈夫かな・・・?」
百花文(はい。ファイテンさんなら大丈夫ですよ。これまでずっと、鍛錬を積んできたんですから!)
ファイテン「うん、ありがと。文ちゃん」
百花文(式を通じてその土地のあやかしが強力なのは伝わってきます。三善先生の言う通り、討伐には入念な準備が必要そうですね)
百花文(この国にある祠の守護者討伐なども、考えた方がいいかもしれません)
ファイテン「うん。先に進むと決めたんだし・・・頑張らないとね!」
幕府の役人「ここから先に生きている人間はいない。・・・ああ、いないんだよ・・・」
社の住人「お参りの方ですか?ここは土蜘蛛様を祀っているんですよ」
少女「正面の山道は門が閉じられているので、本堂へは庭園側を回ってからお願いしますね。いい景色なので、散歩にもちょうどいいですよ!」
少女「これは枯山水といって、水や夜空の星を表しているそうです。綺麗ですよね」
修行中の少女「ここは静かでしょう?修行や信仰に集中できる、いい社だと思います」
虚ろな少女「私、何をしようと・・・?」
修行中の少女「陰陽師の方ですか?私も今、修行中なんです。頑張りますよ!」
社の住人「遠回りをさせてしまいましたね。でも、いい景色だったでしょ?」
記憶を残した行商人「・・・六文銭以上お金を貯めてもな・・・ここからは、出られんぞ・・・?」
翡翠の髪飾りをした少女「本堂はこの先だね!あなたは何をお祈りするのだろう・・・?私は、お父さんのこと、かな!」
【駿河国 蟲毒の社 主の前】
ファイテン「・・・・・・」
百花文(あの、ファイテンさん・・・?」
ファイテン「ううん。今は、いいや。まずは、ここの主を討伐しないと」
百花文(えっと・・・恐らくですが、主は絡新婦(じょろうぐも)
。土蜘蛛を産み、束ねるあやかしです。土蜘蛛と同じく火が弱点なので、そこを突くといいと思います)
ファイテン「ありがとう。それじゃ、行くね!」
【逢魔時退魔学園】
三善先生「戻ったか、ファイテン」
百花文「おかえりなさい。ファイテンさん」
ファイテン「ただいま戻りました、三善先生。それに、文ちゃんも」
三善先生「声が沈んでいるな。気持ちの方は大丈夫か?」
ファイテン「はい」
三善先生「いつ、他のあやかしもあのように変質するか分からない。社の光景を、忘れずに先に進んでくれ。決意が鈍ったならば、それはそれで仕方のないことだ」
三善先生「ファイテンは、あの光景を見てどう思った?」
ファイテン「怖くなりました。あの社みたいに、いつか自分も、とか考えて・・・」
百花文「ファイテンさん・・・」
ファイテン「かくりよの大門まで、私なんかじゃ辿り着けないんじゃないか、って」
三善先生「では、ここで歩みを止めるか?校長先生も言っていたが、それも選択だ」
ファイテン「けど、私は・・・私は、決めたことは曲げません。このまま前に進みます!」
ファイテン「やっぱりあの子に会いたいのもありますが、もう一つ理由ができました」
ファイテン「これ以上、あんな悲しい場所を増やしたくないです!」
三善先生「そう、か・・・」
三善先生「お前は、乗り越えたのだな」
三善先生「・・・・・・」
三善先生「よく頑張ったわね、ファイテン」
三善先生「教師としても、個人としてもあなたを労います。乗り越えてくれて、ありがとう」
ファイテン「はいっ、八重さん!」