第10章 上野:伊香保温泉

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【逢魔時退魔学園】

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三善先生「まだ考え中だとは思うが、新たなかくりよの門が確認された。【上野国】の【伊香保温泉】療養や観光地として賑わっていた温泉街だ」

三善先生「守護者は【猩猩(しょうじょう)】海に現れることの多い妖怪だが、猿を媒体として現れたのだろう。酒を好む赤ら顔の伝承もある。不思議なことではないな」

ファイテン「あの、先生・・・気づいたんですが」

三善先生「なんだ?ファイテン」

ファイテン「あの雷獣、実は事前に知ってたんじゃ・・・」

三善先生「・・・・・・」

ファイテン「・・・・・・・・・」

三善先生「ふふ・・・よく気づいたな。そうだ。あれは芝居だったのだ」

ファイテン「ブッ!?っちょ!やめてくださいよ!」

三善先生「だが、間違ったことは何も言っていないぞ?雷獣とはもともと雷の化身。本来であればもっと格の高いあやかし。だが恐らく、現出を急いで、山犬にでも憑いてしまったのだろう」

ファイテン「あ、なるほど・・・確かに山犬が多かったですしね、って!いや、そうじゃなくてですね!本気で落ち込んだというか、何というか・・・」

三善先生「痛くなければ覚えないだろう?とくに、ファイテンはな」

ファイテン「え、えぇぇー・・・」

【上野国 伊香保温泉】

温泉

ファイテン「温泉街って初めて来たけど、すっごい匂い・・・」

百花文(何度か療養に行ったことがありますが、匂いだけは慣れませんね)

ファイテン「あれっ、想像して吐血しないの?」

百花文(まあ、慣れてますから。今度、一緒に行きましょうか?)

ファイテン「それは全部が一段落したら考えようかな」

百花文(なるほど【全部】ですか・・・)

町の用心棒「今年の逢魔時退魔学園は豊作だな。さっきも生徒が来ていたぞ」

温泉街の看板娘「伊香保温泉へようこそ!・・・また、そう言いたいものね」

町娘「宿も店も、悪戯が怖くて閉じてるのよ。襲われないからいいってもんじゃないさ」

町娘「何度も門を閉じてもらっているのに、申し訳ないです」

先遣隊「猩猩は今までにないあやかしだ。できる範囲で手助けしよう」

町人「ここの湯につかりながら一杯が楽しみだったんだがなあ・・・」

先遣隊「斬っても、閉じても、あやかしが減らぬ。だが、諦めるつもりはない」

町人「くそっ!また猩猩に弁当を盗られてしまうとは!」

町人「紅葉を楽しむ余裕だけは、どんなになっても忘れたくないのよね」

町娘「この温泉を救ってください・・・元の、活気ある温泉に・・・」

町人「野湯につかってた猿、嫌いじゃなかったんだけどな・・・猩猩の元は、あいつらなんだろ?」

【上野国 伊香保温泉 守護者前】

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ファイテン「もー、もー!何なの、あの子猩猩!」

百花文(数も多いし面倒でしたねぇ。だいぶお尻を蹴られていたようで)

ファイテン「あれ痛かったなぁ・・・帰ったら文ちゃんにもお裾分けしようか?」

百花文(遠慮させてください。いえ、本気でやめてくださいね)

ファイテン「さすがに冗談だけど。ここの守護者はその猩猩なんだよね?」

百花文(本当に、冗談ですよね・・・?ええ、猩猩です)

百花文(途中で話されていた通り、元々はそちらに生息していた猿のようです)

百花文(力も強く、お酒が好きで、子猩猩の元締め。厳しい討伐になりそうですね)

百花文(一度、試しに挑んでから対策を考えるのもいいと思います。もちろん、私もお手伝いしますよ)

ファイテン「うん。ありがとう、文ちゃん。それじゃ、その猩猩の顔でお拝んでみようかな!」

【逢魔時退魔学園】

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吉備校長「戻ったようじゃな・・・しかし、少し匂うぞ・・・」

ファイテン「えー。そんなこと言わないで下さいよ!確かに、色んな匂いが残ってますけど・・・」

吉備校長「まあ、良い。後ほど、結論を問うぞ?準備はしておくんじゃな」

ファイテン「校長先生、一つ聞かせてください」

吉備校長「手短にな?」

ファイテン「そんなに引かないで下さいよ・・・えっと」

ファイテン「私の会いたい式姫と、あやかしの大門。無関係ではないですよね」

吉備校長「それは質問ではない、確認というんじゃ」

ファイテン「かくりよの大門の時期と、私の記憶に残る光景。時期が合います」

ファイテン「それに、あの式姫は今まで知ったどれとも違いました」

吉備校長「・・・無関係ではない。だが、それだけじゃ・・・」

ファイテン「わかりました、ありがとうございます」

吉備校長「では、時間をおいた後、逢魔時退魔学園裏手まで頼むぞ」

【逢魔時退魔学園裏手】

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土御門澄姫「さっぱりした顔しちゃって。結論は出たのかしら?」

ファイテン「お互い様だと思うけど。澄姫だってぐちゃっとした顔じゃないし」

土御門澄姫「ぐちゃ・・・ぐちゃってどういうことよ!」

ファイテン「校長先生から話を聞いた後の顔、ぐちゃっとしてたよ?」

土御門澄姫「ぐちゃって・・・」

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吉備校長「ふむ、先に来ておったのか」

三善先生「何やら話し込んでいたようだな。だが、さっぱりとした顔に見える」

吉備校長「では・・・結論を聞かせて貰おうか。どんな答えでも学園とワシが全力で支援する」

吉備校長「まずは土御門、オヌシは?」

土御門澄姫「あたしは・・・このまま進みます」

土御門澄姫「あたしの力はわかりませんが、かくりよの大門を開いたのが陰陽師なら、その大家として土御門家には、事態の収拾を図る義務があります」

吉備校長「ふむ、義務感で進むというのか?」

土御門澄姫「いえ。義務だけではないです。各地で困っている人を見てきました」

土御門澄姫「あやかしは、あまり一般の人を襲っていません、力を使いたくないから。けれど、あやかしがいるだけで生活は脅かされる。数少ないだけで、人を襲うあやかしもいる。それを見てきました」

土御門澄姫「だから、あたしは京都を目指します。土御門の力を使って、このまま」

吉備校長「そうかそうか・・・若いのう。いや、ワシもまだ若いつもりじゃが。ファイテン。オヌシはどうする?」

ファイテン「私は・・・澄姫のように断言できるだけの立派な理由はありません。それでもやっぱり、幼いころの記憶に残っている、あの式姫にまた会いたい」

ファイテン「まずは、行けるところまでは進んでみます。結論は・・・まだ出せませんけど」

吉備校長「いや、今結論を出せというのは酷じゃったからな」

吉備校長「少なくともフィテンが力を持った陰陽師なのは確かじゃ」

吉備校長「では二人の結論を受け取っておこう。この吉備泉、個人としてその決定を嬉しく思うぞ」

ファイテン「はい!」

土御門澄姫「はい!」

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ファイテン「ふーっ・・・なんだか、疲れちゃったね」

土御門澄姫「ファイテン・・・」

土御門澄姫「あたしね、あなたには負けたくなかったの」

ファイテン「いや、そんなに改まらなくても見え見えだったというか・・・」

土御門澄姫「座学はロクに聞いていない、学園住み込みの生徒として育てられている。そのくせに実技はそれなりにこなすし、それに・・・それにね」

土御門澄姫「この学園に入った理由が・・・また会いたい式姫がいるんです・・・なんって自覚がないんだ。そう思ったのよね」

ファイテン「たはは・・・そこは否定できないけれど、そんなに軽い理由でもないんだよ」

土御門澄姫「それはわかったわ。わかったからこそ、やっぱりあなたには負けたくない」

ファイテン「そういう宣言は勝手だけど、負けて泣かないようにようにね?」

土御門澄姫「うっ、うるさいっ!」

土御門澄姫「ともかく、言いたかったのはそれだけだから!必ず、あたしが先に、かくりよの大門を閉じるんだからね!」

ファイテン「・・・行っちゃった」

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吉備校長「やれやれ、口ではあんなことを言いながら、根底は負けず嫌いか」

三善先生「まるで校長先生とあの人みたいでしたね」

吉備校長「懐かしいことを言うんじゃない。全く・・・」

吉備校長「けれど、ああ、そうだね。昔のワシとファイテンの母そのものだよ・・・」


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