【逢魔時退魔学園 裏手】
吉備校長「一旦もどったようじゃな。話は三善先生から聞いておる」
ファイテン「あっ、調査結果は・・・」
吉備校長「いや、大丈夫じゃ。オヌシの遠征中の様子は報告を受けた」
吉備校長「察してはいるじゃろうが、美濃国にかくりよの門が開いた。オヌシを対象とした・・・な」
ファイテン「私を、ですか。薄々そんな気はしていました」
ファイテン「私のせい、なんですか?」
吉備校長「気に病むな。断言しよう。オヌシ自身のせいではない。この吉備泉。その名にかけて」
ファイテン「はい。ありが・・・」
吉備校長「礼は不要!事実を述べただけじゃからの」
ファイテン「ぐっ・・・は、はい!」
吉備校長「ともあれ、門が開いた以上は放置は出来ぬ。今回の門は初めて開いた門じゃ。が、守護者は予想がつく」
吉備校長「【覚(さとり)】と言う名に聞き覚えは無いか?」
悪路王「心を読み、記憶を覗く。そうした妖怪だな」
吉備校長「答えを先に言っては詰まらんじゃろう・・・?」
ファイテン「心を読む、ですか」
吉備校長「そう。人の心を読み取る妖怪。それが今回の守護者である覚じゃ」
吉備校長「故に、転送後の伝心は控えるように。心細いじゃろうがな」
ファイテン「通じない、訳ではないんですよね?」
吉備校長「ああ、問題ない。じゃが覚は心を読む。伝心からこの学園のことや、その他が伝わる可能性がある」
吉備校長「・・・すまんな」
ファイテン「いいえ!初めてじゃないですし!」
悪路王「・・・吾を見るな」
吉備校長「それと悪、オヌシも・・・」
悪路王「わかっている、今回は残ろう。吾を読ませる訳にもいかぬ」
吉備校長「転送や帰還は問題ない。じゃが一人の遠征となる」
吉備校長「気をつけてな。・・・それしか言えぬ」
ファイテン「大丈夫です!任せておいてください!」
ファイテン「それじゃ、行ってきますね!」
・・・・・・
悪路王「先ほどと同じ言葉か。泉、ファイテンだが・・・」
吉備校長「わかっておる、よろしくはないな。その上、覚とは・・・」
悪路王「吾に残れと言った真意、話を合わせたが察しはつく」
悪路王「吾を見くびったな。吾が喰われると思うたか」
吉備校長「ああ、そうか。オヌシは憑依しておる故気づいたか」
悪路王「・・・どういうことだ、あの力は」
悪路王「吾と式姫が憑依してなお、十二分に余力を残している・・・内部にあんなものを抱えてなお」
吉備校長「今少し、今少し待ってくれ、悪よ。オヌシに失望されたくはない」
吉備校長「じゃが・・・」
吉備校長「ワシがあの子に全てを伝えるには、まだ早いのじゃ・・・」
【美濃国 山城跡】
ファイテン「先生と文ちゃんに聞いた話だと、ここの天守閣に覚が・・・」
ファイテン「うーん。伝心が使えないと、やっぱりちょっと不安かな」
ファイテン「それに・・・」
ファイテン「いけないいけない!二人に頼ってばかりなのもね!今は先に進もう!」
陰陽師「天守閣から僅かに瘴気を感じる。でも随分大人しい・・・誰かを待っているみたい」
奉行人「かくりよの門はこの先らしい。この山城跡は使わなくなって随分経つから何がどうなっているのか分からないが・・・」
【美濃国 山城跡 守護者前】
土御門澄姫「あらっ?」
ファイテン「す・・・澄姫!?どうしてここに!」
土御門澄姫「ファイテン・・・」
ファイテン「もー、今までどこに」
土御門澄姫「私ね・・・」
ファイテン「うん?」
土御門澄姫「あなたにだけは負けたくないと思っていたの」
ファイテン「うん、うん。そうだって言ってたよね。それは気づいて・・・」
土御門澄姫「それはね、あなたのことが大嫌いだから」
ファイテン「・・・えっ」
土御門澄姫「座学は真面目に受けない。先生からは目を掛けられる。式姫には好かれる。私の少し先にあなたがいる」
ファイテン「ち、ちがうよ!私からすれば澄姫の方が・・・」
???「あ、あはははははっ!」
???「どうしたの?そんなに慌てて(思ッタトオリ、ソンナニ慌テテ)」
ファイテン「なっ!も、もしかして」
???「そんなに怖いんだ。そう言われることが(怖イヨネ。大好きナ、相手ダカラ)」
ファイテン「あなた・・・いえ。お前が、覚・・・?」
覚「ここまでの間、心を覗かせて貰ったわ(タッタ今、心ヲ読ンダノヨ)」
ファイテン「許さない・・・勝手に澄姫の声で、あんなことを・・・!」
覚「あはははははっ!(ウフフフフフ)」
覚「相手も同じことを思っていたら?(タダ言葉ニ、出サナイダケデ)」
ファイテン「でも、でも・・・!批難だろうと、何だろうと私への言葉は、本人から聞きたい!どう、思われていても・・・」
覚「人は記憶を塗り変える(歴史スラモ塗リ変エル)」
覚「貴方の過去の記憶、見せて貰うわ(耳ヲ閉ザシタ言葉、聞セテアゲル)」
覚「さあ、いらっしゃい陰陽師(サア、イラッシャイ陰陽師)」
【逢魔時退魔学園】
百花文「ファイテンさん・・・」
ファイテン「ただいま、文ちゃん。ちょっと疲れちゃった」
吉備校長「言葉でしか労えぬが・・・ご苦労じゃった」
ファイテン「校長先生。覚の・・・」
吉備校長「ああ、伝心はせぬが様子は探らせてもらった」
百花文「心配だったから、いつも以上にじっと見てました」
ファイテン「そうだったんだ・・・ありがとう、文ちゃん」
吉備校長「覚は人の記憶を探り、その姿を取って人を惑わす」
吉備校長「どうやら、分不相応なものを宿らせ、自滅したようじゃな」
ファイテン「それじゃ、最後に現れたものは・・・」
吉備校長「オヌシの記憶にあった【何か】じゃ」
吉備校長「人の記憶や印象など虚ろなもの。例え話をしよう・・・」
吉備校長「幼い頃蜂に刺されたとき、大病を患ったとき。そうした記憶は時として、本人の知らぬ間に大きくなる」
吉備校長「あの白蛇もその一種じゃ。必要以上に【何か】が肥大化したのじゃろう」
吉備校長「その証拠に、自滅した覚じゃが、まだあの地で目撃されておる」
吉備校長「だがそれは、散った覚が消えきれずに残るほどの残滓(ざんし)。再度戦うことも出来るが、あの時と同じ繰り返しになろう」
吉備校長「その分、読み取った【何か】が多きくなっておった、ということじゃな」
ファイテン「そう、ですか・・・今は、それで納得しておきます」
吉備校長「・・・・・・スマン、助かる。そして何より土御門じゃな」
ファイテン「澄姫・・・どこに・・・」
吉備校長「学園から・・・いや、吉備泉からオヌシに依頼をしよう」
ファイテン「えっ?は、はい」
吉備校長「土御門澄姫を追え。オヌシのやりたいように、な」
ファイテン「い、いいんですか!ずっと、探しに行きたかったんです!」
吉備校長「構わん。話がしたいのじゃろう?」
吉備校長「友達なんじゃ。大手を振って会いに行くといい」
ファイテン「ありがとうございます!」
吉備校長「学園長であるワシからの依頼じゃ。全てに優先して構わん。土御門の足跡もワシが追おう。何かあったら連絡をする」
吉備校長「土御門に会ったとき、気落ちした顔をしているでないぞ?」
ファイテン「はい!もちろんですっ!」
・・・・・・
百花文「あんなに元気になると、方位師としては少し複雑ですね」
百花文「でも、嬉しいです。ファイテンさんの式姫も心配していましたし」
吉備校長「そうじゃな。ワシもあの子が沈んでいると調子が狂う」
吉備校長「オヌシもそうであろう?」
悪路王「宿主の調子は吾にも関わる。それ以上の意味はない」
吉備校長「ははは。そうかそうか。まあそう言うことでいいじゃろう」
吉備校長「しかし、ああ言った以上、ワシも急がねばいかんな。消息が掴めたら伝えよう。その時まで、頼んだぞ」
百花文「はいっ!」