第33章 阿波:阿讃山脈

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【逢魔時退魔学園】

ファイテン 文

ファイテン「さてと…文ちゃんが言ってた鳴門海峡の黒い渦のことなんだけど」

ファイテン「今のところ、やっぱりそういうものを見たっていう人はいなかったよ」

ファイテン「でも、何人かはちょっと不思議なことを言ってたかな」

百花文「不思議なこと、とは…?」

ファイテン「うん、潮が【におう】って…」

百花文「それは…磯の香り、ということではないですよね?」

ファイテン(文ちゃん、こういう時さらっと面白いことを言うんだよね…)

ファイテン「うん、いつもの海のにおいじゃないなって感じることがあるんだって」

ファイテン「もちろん、私はわからなかったんだけど。地元の人たちだからわかることなんだろうね」

百花文「住民の方々は何かを察知していると…それがわかっただけでも十分です」

百花文「それでここからが本題なんですが…これを見てください」

ファイテン「…ふ、文ちゃん?これは、ええと…?」

百花文「外つ国の書物です」

百花文「あ、文字の部分を読んでほしいわけではなくてですね…」

百花文「ええと、ここです。この先の項に載っている挿絵を見てください」

ファイテン「…ええと、なんだろう、神様かな?」

ファイテン「こっちは…た、たこ!?大きいたこがいるね…船を襲って…」

ファイテン「…こっちは、海が割れている!?あっ、島が海の中に!?」

ファイテン「文ちゃん、これって…!?」

百花文「舶来種の式姫の方々に協力していただいて、書物の中身もざっと解読してみたところ、どうやら、これらは外つ国の伝承の類で、事実録ではないということでした」

百花文「しかし、海に未知の生き物やあやかしが潜んでいる可能性は十分に考えられます」

ファイテン「確かに、私たちは陸の上からしか海を見たことがないし__仮に、門が海の底にも開くんだとしたら一大事だね」

百花文「そこで、今回は四国の沈没をあやかしによる脅威と仮定して調査します」

百花文「黒い渦については、いくつかの書物に記載がありました」

「黒い渦が現れる時、海は怒り土を飲む」
「大渦がうなり声を上げて黒くよどむ」

ファイテン 文

百花文「いずれも、海に棲む化け物や神の怒りについての記述です」

百花文「これらの前後に、周辺の山や川でも異変が見られたという記述もあります」

ファイテン「周辺の山や川かぁ…あっ、異変とはちょっと違うかもしれないけど、【夜行さん】が出るから、山の方には近づくなって話は聞いたかな」

百花文「【夜行さん】は、書物で見たことがありますね。首なしの馬に乗って現れるとか…」

ファイテン「うわぁ…陰陽師でもできるだけ見たくないかなぁ…」

百花文「警戒されているということは、多少は実害もあったのではないでしょうか」

ファイテン「うん、聞いたからには放っておけないよね!」

百花文「調査も兼ねて、真偽のほどを確かめてみるのも手ですね」

百花文「これまでは、【阿讃山脈】のあやかし出現報告は稀だったはずです」

百花文「もし、今回の遠征で相当数のあやかしに遭遇するようであれば__」

ファイテン「何かに誘発されている可能性が高い、ってことだね」

ファイテン「沈没の件とは関係がなかったとしても、あやかしが増えているなら対処しないと…」

百花文「四国については、学園にある資料もあまりにあてになりません」

百花文「情報が少なくて申し訳ありませんが、追加で資料を集めているところですので、今回は十分な備えをして向かってください」

ファイテン「うんっ、ありがとう!調べもの、任せきりにしちゃってごめんね」

百花文「これが私の仕事ですから、気にしなくていいんですよ」

百花文「それに、調べものは苦になりませんから。好きでやっているようなところもありますし」

百花文「…というか、どうしたんです?急にそんなことを」

ファイテン「あはは…そうだよね。調べもの任せっきりなのはいつものことだしね!」

百花文「そこは胸を張るところでもないんですが…とにかく、しっかり準備して向かってくださいね」

ファイテン「はーい!いってきます!」

ファイテン(…文ちゃんがいなかったら、私って今頃、どうなってたんだろうな)

ファイテン(悪路王さんや校長先生とのことがあってから、ちょっと考えちゃうんだよね)

【阿波国 阿讃山脈】

阿讃山脈

ファイテン「うわぁ…きつそうな山道だなー」

百花文(阿讃山脈はあまり拓かれていませんし、傾斜がきついというのは聞いていましたが、目で見てわかるほどとは相当なものですね)

ファイテン「うん、これだとあやかしがいなかったとしてもやすやすと出入りできないっていうか」

ファイテン「…あっ、今たぬきが…!?他の動物もいっぱい見られるかも!」

百花文(ファイテンさん…確認ですが、きちんと準備してでかけたんですよね?)

ファイテン「そ、そこは大丈夫だよ!きちんと、討伐にも備えてあるし!」

ファイテン「あっ、また何か通った!」

百花文(ファイテンさん…)

武士「日が暮れかかってきたな。一晩休んでから進むべきか…」

旅人「山頂に休めるところがあるみたいよ。山道は無理しないことが基本だね」

武士「こう見えて高いところが苦手でな…。この橋はダメだ、違う道を探すか…」

旅人「この先が山頂のようね。あともう一頑ん張り頑張りましょう」

行商人「山登り疲れただろう?一休みするついでに、ウチの商品を見てってな」

神官「我々がこの地に山の神…、いや山の祟りを封じておる。供物を捧げないことで力を削げるかと睨んでいたが、その限りでは無いようだ。さて、どうしたものか…」

旅人「ここから見える夕焼けが綺麗でたまに来たくなるのよね」

修行僧「馬の足音が聞こえてきたな。うむ、お互い用心しておこう」

和尚「山の神に捧げるための護酒が、どうやらこの近くに供えられているらしい」

村人「おっと、いけね。ついつい夢中になってしまった。夜が更ける前に下山しなきゃだな」

旅人「この先の道ですごい音がしたよ。何だか怖いから先に行って見てきてもらえないかな?」

【阿讃山脈 山頂の祠】

20150202173720220

ファイテン「【夜行さん】の出る場所って…この辺りだよね?」

百花文(これまでの近隣の方々の話をまとめると、おそらくはその辺りですね)

百花文(【夜行さん】をあやかしとするかは報告例がないのでなんとも、なのですが、)

百花文(書物によれば、首の無い馬のほうも意思を持っているとのことです)

百花文(二段構えで攻撃してくる可能性もありますから、体力に注意してください)

ファイテン「うう、首のない馬かぁ…夢に出てきそうで勘弁してほしいけど…」

ファイテン「やるしかないね!」

【逢魔時退魔学園】

ファイテン「ただいまー!はぁ…足がぱんぱんだよー」

百花文「おかえりなさい。桶にお湯をはっておきましたよ」

ファイテン「やったー!ありがとう!…ふぅ、生き返るー」

百花文「やはり、相当険しい山道だったようですね」

ファイテン「それもあるんだけど、木が倒れてたり、お地蔵さんが倒れてたりして…」

ファイテン「あやかしが暴れたせいかなと思うんだけどね」

ファイテン「そういうのを避けたり、もとの場所に戻してたらすっかり足腰が…」

百花文「ふふ、お疲れ様でした。今夜は、少し熱めのお風呂にしますね」

ファイテン「うん、そうしてもらえるとありがたいかな…」

ファイテン「あっ、それでね、山のあやかしなんだけど、やっぱりそこそこ数はいたかな」

ファイテン「文ちゃんの言う通り、前はほとんどあやかしなんて出たことがなくて…」

百花文「だからこそ、【夜行さん】が目立って報告されていたわけですね」

ファイテン「そういうことみたいだね」

ファイテン「今ではあやかしが増えて大変だからって、四国に渡る陰陽師も増えてるみたい」

百花文「そういうことなら、今後は少しずつ情報も増えそうですね」

百花文「他の陰陽師の方からも積極的に話を聞いたほうが良さそうです」

百花文「といっても、悠長にしている場合ではないのかもしれませんが」

ファイテン「また何かわかったの?」

百花文「わかったというよりも、これは私の推測ですが…」

百花文「海の生き物は、潮の流れを読むといいます。であれば、海のあやかしも…」

百花文「潮の満ち引きが海の呼吸であるとすれば、棲まうものの力もそれに左右されるのではと」

ファイテン「陸の生き物やあやかしにも、動きやすい時間とか、時期ってあるもんね」

百花文「解決策を練るための猶予がどのくらいあるのか、早めに知っておいた方が良いかと思いまして」

ファイテン「そうだね、私はできるだけ現地で情報を…あたた…」

百花文「あの、ファイテンさん、大丈夫ですか…?」

ファイテン「あはは…ごめんね、大事な話してるのに。まいったなー、体がばきばきいってる」

百花文「そういえば…温泉がありましたよね。四国では有名なところだそうですが…」

ファイテン「お、温泉…!?」

百花文「はい…って、あの、もしかして…」

ファイテン「それを聞いて行かずにはいられないよ!次の目的地はそこだね!」

百花文「は、はぁ…そんな決め方でいいのか不安ですが」

百花文「ひとまず、今日はうちのお風呂で我慢してくださいね?」

ファイテン「あはは、もちろん!流石に今日はもう…ふぁ…」

百花文「夕飯までまだ時間がありますから、少し眠ってはいかがですか?」

百花文「詳しい話は、またあとで」

ファイテン「そっか、ありがとう…それじゃあ、お言葉に甘えて…ふぁ…」

百花文(さて、私はもう少しだけ調べものを…日が落ちる前に、これだけは…)


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