【逢魔時退魔学園 裏手】
ファイテン「ただいま戻りました!ほら、このとーり」
吉備校長「土御門よ、頭は晴れたか?」
………
吉備校長「陰陽師の私闘は厳罰を与えねばならぬ」
三善先生「そうですね、その通りです」
ファイテン「あの、先生も校長先生に掴みかかったんじゃ…?」
三善先生「何の話かわからないな」
吉備校長「ワシも最近は物覚えが悪くてな」
ファイテン「うわ、ずるい…」
三善先生「冗談はこのくらいにしておこう。あれだけ派手にやりあったのだ。示しの為にも、二人にはしばしの謹慎を言い渡す」
吉備校長「期限は、次なる門が開くまでの間じゃな」
三善先生「その間、新たな遠征の案内は行わないようにしておこう」
百花文(結局、いつも通りってことですね。心配したんですから!)
ファイテン(文ちゃん…見守ってくれて、ありがとう。帰ってこれたよ)
ファイテン(かえっ…て…)
(__カラン)
ファイテン「あれ、武器が…あれれ、おかしいな…」
ファイテン「なんで、こんなに震えて…涙まで…」
吉備校長「緊張が解けたか…三善先生」
三善先生「はい」
吉備校長「家まで送ってやってくれ。こういうときは歩いた方が良い」
三善先生「わかりました。ほら、ファイテン。いくぞ」
ファイテン「あっ、すみ__」
吉備校長「土御門にも時間を与えてやれ。先ほどからずっと__オヌシ以上に震えておるわ」
ファイテン「わかりました…」
三善先生「さて、では行くぞ」
………
吉備校長「震えは止まったか?親友に刃を向けた震えは」
土御門澄姫「…これも、校長先生が経験した震え。ですよね」
吉備校長「二度と味わいたくない、味あわせたくないと思ったが__決意は、揺らぐものでは無いこと、自らのことを忘れておったよ」
土御門澄姫「殺す、って言ったんです。私は…本気で!」
土御門澄姫「ファイテンに!だから!殺さないといけなかったんです!」
土御門澄姫「吐いた言葉に、責任を持つために!」
吉備校長「心にもない理由と刃は、やはり届かぬか…」
吉備校長「いざとなれば止めるつもりじゃったが、その必要もなかったな」
吉備校長(ワシと、同じく…)
吉備校長「【かくりよの大門を閉じる】言葉なら、ワシがここで預かろう」
吉備校長「【救いたい人がいる】という言葉もな…」
吉備校長「辛い思いをさせてしまったの。オヌシにも、あの子にも」
土御門澄姫「一つだけ…訂正させてください。私は、親友ではなく__かくりよの大門に、刃を向けたんです」
土御門澄姫「ファイテンを救いたかったから…」
土御門澄姫「なのに__心も、身体も傷つけて、泣かせてしまって…」
土御門澄姫「うっ…ううっ…ごめん、ごめんね…」
………
悪路王(泉はああ言うが、決意だけではない、そもそもの力量の差、だな)
悪路王(さて。どれほど吾に力が戻ったか…)
………
悪路王「ふむ。劫槍まで顕現出来るようになったか」
悪路王「山俣宿せし大木。何も知らぬ洞だらけの大木」
悪路王「吾が食い破るまで今少し、付き合うとしようか__」
………
吉備校長(悪よ…青行燈の件、そして信濃国での扇動)
吉備校長(ワシを見くびってのことか、挑発か。どちらにせよ…)
吉備校長(オヌシを見過ごすわけにはいかなくなりそうじゃな__)
【逢魔時退魔学園】
土御門澄姫「………」
ファイテン「………」
土御門澄姫「何よ?」
ファイテン「ううん。べつにー」
土御門澄姫「あれ以来ずーっとこんな感じじゃない」
ファイテン「澄姫を学園で見るのも久しぶりだし…」
土御門澄姫「そうね…私も、またこうなれるとは思わなかったわ」
三善先生「そこは校長先生に感謝しなければならんな」
三善先生「あの人がどれだけ奔走したか、想像できぬお前でもあるまい?」
土御門澄姫「…はい。そうですね。本当に…」
吉備校長「改まって礼を言う必要はないぞ。校長として、先達として当然のことじゃ」
吉備校長「時に__ファイテンに土御門よ。時を持て余しておるのなら…」
吉備校長「謹慎中だが、あの地で模擬戦を行ってくれんかの」
ファイテン「えっ!?あそこで、ですか…」
土御門澄姫「謹慎の理由が、そもそも…」
三善先生「まあ、聞いてくれ。謹慎も含め、学園内のこととして収めようとしたのだが__」
吉備校長「オヌシラの戦い。その影響が大きくての…」
吉備校長「陰陽師同士の私闘にすると、幕府が黙っておらぬことになりそうでな」
吉備校長「あれだけの力、幕府に管理させよ、と」
吉備校長「また、ワシの管理不行き届きにも繋がりかねん」
吉備校長(管理不行き届きは否定できぬがな…)
三善先生「まあ、広義では校長先生のせいだが__」
吉備校長「ぐっ…言うようになったの。八重よ…」
三善先生「お前たちにも関わることだ。協力して貰えると助かる」
吉備校長「上の者には『かの古戦場では門の力が大きい。幕府にとっても捨て置けぬ地』『彼の者が蘇った…幕府に不満が…など』『妙な噂が広まらぬよう、定期的に力のある陰陽師が瘴気を散らす』と伝えておる」
ファイテン「はー…な、なるほど…」
土御門澄姫「政治的な話になってしまったんですね。わかりました」
土御門澄姫「これが恩返しになるなら、私は問題ありません」
ファイテン「あっ、私もです!」
吉備校長「そうか、すまんの…彼の地への遠征を許可しよう」
吉備校長「オヌシラの模擬戦は、あくまで瘴気を散らす儀式として、じゃぞ」
吉備校長「強制はせん。時間のあるときに、で良いからな?」
ファイテン「はいっ!」
………
吉備校長「土御門よ」
土御門澄姫「…模擬戦ですが、大丈夫なんでしょうか」
吉備校長「かくりよの大門。そして悪路の加護のことか」
土御門澄姫「はい」
吉備校長「瘴気を散らす、ということはまんざら偽りでもない」
吉備校長「あの子の動揺は計り知れなかった。強気に振舞ったようじゃが…揺れておったよ。それだけ、オヌシを案じていたのじゃろう」
土御門澄姫「……」
吉備校長「戦いを挑んで来たら、応じてやってくれ」
吉備校長「揺れた隙間に入り込んだものを、散らすことにも繋がろう」
吉備校長「悪路の加護は安心しろ。ファイテンの力を吸うことは無い」
吉備校長「訓練で吸ってしまっていては、日々の鍛錬すら無理じゃろう?」
土御門澄姫「…わかりました。その…」
土御門澄姫「色々、ありがとうございました!」
………
吉備校長「オヌシにとっては理想的な展開になっておったようじゃな」
吉備校長「対峙する前に現れた常夜の境も、降雪城址を模したものだったらしいな」
悪路王「随分警戒するようになったな。しかし__眼に意思あれど力無し。加護に意思なくも力有り」
悪路王「吾は見ることしか出来ぬ。少なくとも【吾】はな」
吉備校長「…そうして念を押す以上、含むところがありそうじゃな」
吉備校長「まあ良い。今しばらくはワシも見守る側に回ろう」
吉備校長「確証が持てぬことで動くには早すぎるようじゃしな」
悪路王「鈍った。いや、甘くなったな、泉。__が…先のように念押しする以上、甘くなったは吾も同じか」
吉備校長「それを、時が流れたと言うのじゃ。ワシも、オヌシもな」
【関が原 十九女池】
澄姫?「この先で待ってる、って。久しぶりに、あんないい顔みたわー。ありがとう、ね」