【土佐海岸・幽】
修行僧「この先に進むのは、やめておきなさい」
旅人「ダメだと言われると気になっちまってさ。気になって、夜しか眠れないよ」
漁師「せっかく見に来たってのに、こうるさい奴がいやがる。あんたも何か言ってやってくれよ」
修行僧「どうしても、と言うなら、進みなさい」
古びた看板:かすれた文字で何か書かれている
ファイテン「ここが、幽世なんですね…思ったよりも普通に感じます」
隠神刑部「普通と言い切るとは、剛毅なことじゃ」
ファイテン「見た目も割と表と同じと言うか、雰囲気も似ているというか…」
ファイテン「【常世の境】の方がよほど、不安になりました」
隠神刑部(既に似た場所の経験がある。これを見越したのか…)
隠神刑部(いや、考えすぎじゃな。あの小娘にはこの事態は想定外)
隠神刑部(が、出来過ぎではある…か)
ファイテン「あの、どうかしました?」
隠神刑部「いや。なんでもない。今一度確認するが__幽世では伝心が通じず、強制帰還も方位師では難しいじゃろう」
隠神刑部「帰還は吾輩に任せてもらおう。学園の位置もしかと覚えておる」
隠神刑部「帰還に不安があろうが、そこは吾輩を信用しろ、と言う他ないな」
ファイテン「大丈夫ですよ。そりゃ、お尻は触りますけど__隠神刑部さんが四国を、愛比売を沈めるようなことはしないと信じています!」
隠神刑部「人からの信頼か…懐かしいが、こそばゆいのう」
隠神刑部「では、進むとするか。妖怪の討伐は任せたぞ」
【土佐海岸・幽 かくりよの門】
ファイテン「これが【龍神の髭】で良いんですよね?」
隠神刑部「なんだかんだここまでは普段と変わらぬ様子だったのう」
ファイテン「まあ…あやかしが出てきたら討伐する。討伐したら先に進む__考えてみたら、いつもと同じだなあ、って」
隠神刑部「割り切りが早いのは良いことではあるが…」
隠神刑部(こやつの切り替えの早さ、時に他の人間を置いていくじゃろう)
隠神刑部(それが心配をかけることを気づかぬとは、まだ青い…か)
………
ファイテン「気配が、しますね」
隠神刑部「ああ、そうじゃな。力は感じるが、意思は感じぬ」
隠神刑部「大方、幽世の妖怪が単純に、『餌が来た』くらいのものじゃろう」
ファイテン「文ちゃんも心配してるし…早く討伐しないと、ですね!」
隠神刑部「幽世の妖怪相手の討伐か。吾輩はここで見物させて貰うぞ」
ファイテン「大丈夫ですよ。私だけで…十分です!」
【逢魔時退魔学園】
隠神刑部「海坊主を呼び出すための髭、持ち帰ってきたぞ」
ファイテン「帰ってきたよー!」
百花文「おかえりなさい、ファイテンさん!」
ファイテン「ふふっ。ただいま、文ちゃん!」
土御門澄姫「あら、私には挨拶はないのかしら?」
ファイテン「澄姫…!」
隠神刑部「ふむ」
(ぱん、ぱん…ぱんっ!)
土御門澄姫「ひうぇ! って、これは何なのよ!」
隠神刑部「ふむ…良いな。これは最上級の__」
柴乃「そこになおりなさい、糞狸。私が相手になりましょう」
隠神刑部「おお、怖い怖い。じゃが、吾輩をそう呼ぶか」
隠神刑部「話は聞いておるようだのう。張りからして、お前が四人目か」
土御門澄姫「ファイテン、ひょっとしてさっきの…」
ファイテン「あはは、私もやられちゃった。器を見ているらしいんだけど…」
土御門澄姫「そう。わかったわ。柴乃姉、終わったら仕掛けましょう」
柴乃「もちろんよ、澄姫。作戦は任せてちょうだい」
隠神刑部「あの小娘も他の者も、淡路国にて待っているらしい」
隠神刑部「吾輩も今から向かおう。準備ができた後、現地で合流じゃな」
土御門澄姫「どう取り繕っても、私は忘れないからね…!」