【逢魔時退魔学園】
三善先生「これから悪路王へと向かうのだが、出発の前に気を付けておくことがある」
三善先生「いままで方位師との会話で使っていた【伝心】に関してだ」
百花文「あっ、私、ですか?」
三善先生「城の地下は伝心が極端に届きにくい。転送や帰還は問題ないのだがな」
百花文「それでは、私の役目は・・・」
三善先生「見ること、聞くことは問題が無い。出来る範囲で、補佐を行ってくれ」
百花文「はい。わかりました」
ファイテン「行ってくるね、文ちゃん!」
三善先生「・・・いざというときは、すぐに帰還できるように、注意していてくれ」
百花文「・・・わかりました。それほどの場所、なのですね」
三善先生「ああ、だが場所と言うよりも悪路王が、な」
【降雪城址 悪路】
ファイテン「地下はどうしても暗いね。外の雪が懐かしくなるくらい」
百花文(・・・・・・)
百花文(・・・い・・・。)
ファイテン(聞こえが悪い。三善先生の言う通り、伝心が届いていない)
ファイテン「転送は・・・大丈夫そう、かな」
ファイテン「ちょっと心細いけど、先に進まないとね」
先遣隊「地下に行けるように、梯子を掛けておいた。しかし、悪路王に用があるのか?」
【悪路王の間】
悪路王「数年ぶりの客かと思えば、今度は間をおかずに二人目か。珍しいな」
ファイテン(声が・・・そこら中から?どこにも、姿は見えないのに)
ファイテン「一人目の子は、どうしましたか?」
悪路王「安倍の一族か。吾(われ)
を退屈させたのでな。加護を与えて帰したぞ」
ファイテン「安倍・・・?土御門ではなく?」
悪路王「陰陽師だろう、お前は。・・・ふむ。血族に連なるものではないのか」
悪路王「伝心を通してやった。詳しくは向こうに聞くがいい」
ファイテン「伝心を通した、って・・・」
百花文(聞こえますか?)
ファイテン「文ちゃん!?」
百花文(陰陽師の開祖と呼ばれる安倍氏。土御門の一つは、その末裔と言われています)
ファイテン「なるほど。ってことは、澄姫はもう帰ったのかな」
悪路王「今すぐお前を帰しても良いのだがな。血に依らぬ陰陽師は久しぶりだ」
(ブチッ・・・)
ファイテン「えっ!?」
悪路王「吾の血は鬼を産む。身体の一部であれば、新たな吾すら生み出せる」
悪路王「これは吾の眼球だ。姿を見せた方が便利であろう」
悪路王「名を名乗れ、そして目を見せろ。鬼の一族をも使役する陰陽師よ」
ファイテン「・・・ファイ・テンです」
悪路王「本当に懐かしさばかり覚えるな、今日は。しかしこれは困った」
百花文(困った・・・?どういうことです?)
悪路王「余りに懐かしくてな、飽かんのだ。吾を退屈させればすぐに帰すのだが」
悪路王「陰陽師。平凡な質問でもして吾を飽かせよ。替わりに答えられることなら答えよう」
百花文(質問って、そんなに急に・・・)
ファイテン「私は陰陽師である前にファイテンです」
悪路王「図に乗るな陰陽師。吾に名前を呼ばれたくば、泉程度には力をつけよ」
ファイテン「ああ、やっぱり知り合いだったんですね。校長先生が【あやつ】と言っていました。
ファイテン「悪路王。私はあなたとの会話を望みます」
悪路王「・・・・・・」
ファイテン「吉備泉は、校長先生は【謁見】と言っていた。けれど、それじゃ足りません」
ファイテン「あなたと会話をするために、まずは私を名前で呼んでもらいます!」
百花文(えっ、あの、ファイテンさん!なんで武器を抜いて・・・!)
悪路王「・・・・・・変わらぬな」
ファイテン「えっ!?」
悪路王「刃を合わせてやる。光栄に思え。そして吾を退屈させてみよ」
悪路王「でなければ、お前が死ぬだけだ」
【逢魔時退魔学園】
土御門澄姫「・・・・・・」
ファイテン「澄姫も戻ったのかな?ねえ、どうだった?」
土御門澄姫「ファイテン・・・あなたは何も思わなかったの?」
ファイテン「何も、って・・・」
土御門澄姫「そう。悪路王から聞いていないのね。それなら、いいわ・・・」
ファイテン「あっ!澄姫!?」
吉備校長「・・・戻ったか、悪路王との謁見はどうじゃった?」
ファイテン「それが・・・戦いになりましたが、途中で消えてしまいました」
百花文(戦いになったのはファイテンさんのせいですけどね・・・)
吉備校長「・・・ふむ?少し目を見せい」
ファイテン「えっ・・・」
吉備校長「・・・」
吉備校長「校舎裏に来い。少し話がある。聞きたいことも増えたしの・・・ワシは、先に行っておるぞ」
【逢魔時退魔学園 校舎裏】
吉備校長「来たか・・・ここならいいじゃろ。のう、悪よ」
???「ああ。そうだな・・・」
悪路王「久しいな、泉よ」
ファイテン「えあっ!?ええっ!?」
百花文(えっ!?あの、そこに・・・!?」
吉備校長「そのまま目に取り憑いたか。何とも、何もかも懐かしいな」
悪路王「安倍の末裔と、この娘。どちらもお前の教え子か?」
吉備校長「そうじゃな。面白い子たちであろう?」
ファイテン「あの、校長先生?」
吉備校長「ファイテン。オヌシは悪路王に取り憑かれた」
ファイテン「ええっ!?」
百花文(そ、そんな!大丈夫なんですか!?」
吉備校長「害はない。少なくとも身体の上はな。ワシが保障しよう」
吉備校長「何か見たいものでもできたか?あのときのようにな」
悪路王「こやつはな・・・足りぬと言ったのだ。吾との謁見を」
悪路王「会話をしたいと抜かした。名前を呼べ、とも。懐かしく思わない方が無理だ」
悪路王「長く伝えられ、人として呼ばれた名も忘れ、擦り切れても、覚えていることがある」
悪路王「お前やあいつに取り憑いていたときがそうだ。認めてやろう、退屈はしなかったと」
悪路王「ファイテン」
吉備校長「ほぅ、名前で呼ぶか、悪よ」
悪路王「老いた嫉妬は見苦しいぞ、泉」
ファイテン「あっ、わ、私!?」
悪路王「【山城国】へ向かえ。十分に力をつけながらな」
悪路王「吾が退屈するまでの間、こうしてお前に取り憑いていよう。だが、力は貸さん。安倍の末裔に与えた加護もな」
悪路王「あの娘の力は大きくお前を凌いだが、お前はその分を自力で埋めろ」
百花文(山城国ということは、やはり京へ・・・?)
悪路王「京とは限らんがな。瘴気と共に溢れている【力】がある」
悪路王「そこを目指すといい。お前の探す【式】がいるかもしれんぞ」
ファイテン「は、はい!でも、どうしてあの子のことまで・・・?」
悪路王「泉から事前にある程度は聞いていた。が、質問ではなく、刃を抜かれるとはな」
ファイテン「いやー、その、それはー・・・その場の空気というかですね」
悪路王「さて、吾は少し泉と話がある。少し、席を外していろ」
吉備校長「そうじゃの。ご苦労じゃった、ファイテン」
ファイテン(こ、これは)
百花文(二人にしろ、ってことですよね・・・)
ファイテン「えっと。それじゃ、あっちに行ってます!」
悪路王「これで満足か、泉よ。安倍にはには力を、ファイテンには目を」
吉備校長「何を言うか。拒否せんかったということは、オヌシも面白いと思ったからであろう?」
悪路王「吾とて情はある。知己が討たれようとしているならば、考えることもな」
吉備校長「オヌシも変わったのう・・・悪よ。いや、変えたのはワシらか」
吉備校長「自惚れではなく、そう思うよ。最も、主に変えたのは・・・」
悪路王「その話はそこまでだ。吾をあまり不愉快にするな」
吉備校長「そうか。すまんかったな・・・」
悪路王「概念に過ぎなかった【悪路王】に姿を与え、使役せんとした欲深き陰陽師の末裔よ」
悪路王「大門の真相はお前の弟子に伝えた。吾の与えた力に、貫かれんようにな」
吉備校長「土御門はそう短絡的にはならんさ。あやつは、昔のワシとは違う。今は、信じるだけじゃよ。それよりも__」
吉備校長「常夜の境界の伝言も頼んだぞ。大分深部まで潜っておるようじゃしの」
悪路王「何もかも、あの時と同じ、か…。いいだろう。伝言は任された」
悪路王「だが、お前の考え。いつか全てを話してもらうがな」
吉備校長「オヌシにいつまでも隠し通せるとは思っておらぬさ…」
【ファイテン自宅前】
ファイテン「何とも・・・驚いたね、文ちゃん」
百花文(ええ。でも私はずーっと驚かされっぱなしですが!)
ファイテン「お、怒ってる?」
百花文(怒ってはいませんけど・・・軽くこう、叱りたい気分ですね!)
ファイテン「うぐぐ・・・」
悪路王「待たせたな、では案内を頼むぞ」
ファイテン「うぇぇぇっ!ど、どうしてここに!?」
悪路王「吾はお前に憑いたのだ。当然のことだろう?」
ファイテン「案内って・・・」
悪路王「お前の自宅に案内しろといったのだ。心配するな。気配は完全に消しておこう。街の人間や式姫に気取られても面白いことにはならないのでな」
ファイテン「その・・・目に憑いたってことは、やっぱり?」
悪路王「これから先、お前が見、感じたことは吾が共感しよう」
悪路王「付き合いが長くなるか、短くなるかはお前次第だ。精々、吾を退屈させてくれ。ファイテン」
ファイテン(ど、どうしよう文ちゃん!)
百花文(ええ。これは一大事ですね)
ファイテン(部屋、全然片付けてないよ!)
百花文(・・・・・・そこなんですか・・・)
悪路王「また、吾と戦いたくなったのであればかの城を訪ねるといい。いつでも相手をしようぞ」
ファイテン「えー。この場で、とかダメなんですか?」
悪路王「・・・吾を呆れさせるな。忘れたのか、吾の血は鬼となる。それに吾は今、単なる【目】だ。戦うほどの力は持っておらぬ」
ファイテン「それじゃ、戦いたくなったらまたお邪魔しますね!」
悪路王「気安いな。だが、それも良かろう。お前らしい・・・」
悪路王(いや、あいつらしい。か・・・)
ファイテン「?どうしました?」
悪路王「いや、そう言えば・・・泉が吾との手合わせを試練にしたと言っていたぞ」
ファイテン「その試練も、あの場所へ?」
悪路王「いや、少し違うな。【ワシと戦った時のように】と言っていた」
ファイテン「うっ・・・校長先生が戦った、と言えば・・・」
悪路王「ああ、お前とやり合ったときよりも吾の力は高まっている・・・そもそも謁見だけのつもりだったのだがな。誰かが武器を抜かなければ」
百花文(本当に、ですよ!びっくりしたんですから!)
ファイテン「うう・・・・・・」
悪路王「ファイテン一人では無理だろう。仲間を連れてくるがいい。その時は、相手をしよう」
ファイテン「はーい」