【逢魔時退魔学園 裏手】
ファイテン「………」
悪路王「………」
悪路王「過去、吾であったものは、お前の母と吉備泉__その二人と共にあったことがある。これは話したことはあったか?」
ファイテン「えっと…多分、無いです。けれど察してはいました」
悪路王「目はお前の母と。倒したものを力とできる加護は吉備泉に」
ファイテン「それ、私と澄姫にしたことと全く同じ、ですよね」
悪路王「方位師よ、百花文よ。問おう、ファイテンの力を」
百花文「えっ?」
悪路王「あやかしを倒せば力を増すこと、おかしいとは思わなかったか?」
百花文「…それは…」
悪路王「あやかしを討伐し、経験として得る。それがそのまま力となる」
悪路王「極端なことを言えば、案山子を相手にしているだけでも成長する」
悪路王「まるで式姫のようにな」
百花文「……」
悪路王「あの娘と吉備泉に与えた加護はそのような力だ」
悪路王「いざと言うときに、親友を止めたい。吉備泉はそう言っていたな」
ファイテン「母も、そうだったんですか?私の様に」
悪路王「人の間に稀に生まれるらしい。このような体質を持つものは」
悪路王「まさしくお前の母はそうだった。近くで見て確信したものだ」
悪路王「…ここからは憶測になるが__」
悪路王「吾であったものと、吉備泉はお前の母をこちらに戻そうとした」
悪路王「吉備泉は自らが消える前に、それを式姫に託し、そのまま消えた」
悪路王「ここまでは大丈夫か?」
ファイテン「…はい」
悪路王「幽世へお前の母が閂として消えた後、残された赤子。同じ魂の赤子」
悪路王「それがお前だ」
悪路王「お前を再度、幽世の閂として大門に至るように仕向ける」
悪路王「仲の良い陰陽師は都合がよかった。力をつけるように向け、協力させても__あのように敵対させてもよかったのだ」
ファイテン「……っ!」
悪路王「お前が破れていれば、あの娘は成り代わり、閂になっていたであろう」
悪路王「だが、吉備泉と【吾】は次第に疑問を覚えるようになっていた」
悪路王「ファイテン。お前と接し、共にいる間にな」
悪路王「関が原での戦いは、吾らはお前たちが再び手を取り合うために__再び道が交わるために、必要なものだと思うようになっていた」
悪路王「その結果、吾は本体の思惑から外れ、本体とは別になってしまったがな」
ファイテン「それが、今言いたかったことですか?」
悪路王「続きは泉と共に話そう。まだ、本題ではないからな」
………
吉備校長「悪の話は終わったか。では、続きじゃな」
吉備校長「悪は完全に分離したが、ワシはまだわからなかった」
吉備校長「主の遺志を継ぐべきなのか、新たな手段を見つけるべきか」
吉備校長「熊野地方より始まった、片目を失った阿弖流為の暗躍」
吉備校長「その最中までずっとじゃ。見極めることができなかった」
吉備校長「…結果として、ワシは今もどうしていいか、まだわからぬ」
吉備校長「が__」
吉備校長「ファイテンを贄にすることだけは避けたいと思っている」
百花文「…その割には、そう言うには、今回の四国にしても__」
百花文「余りにも身勝手すぎます!何も言ってくれないままで!」
吉備校長「四国の逆打ちは、ファイテンに力をつけさせるためだけではない」
吉備校長「幽世との繋がりが強くなることはわかった上で__ワシがファイテンに代わり、閂として消えるつもりじゃった」
吉備校長「幽世に近い存在、式姫。当代一の力を継いだ陰陽師」
吉備校長「この二つを兼ね備えていたのは、ワシだけじゃからの」
ファイテン「澄姫と同じこと、考えてたんですね…」
吉備校長「海坊主に関しては、真に想定外じゃったがな…」
………
吉備校長「四国遠征がああなってしまった理由は、ワシら二人にある」
悪路王「今の吾と、泉。その身勝手が大きな原因」
悪路王「…すまなかった」
悪路王「守るために手にした刀を佩く資格。失うところだった」
吉備校長「…すまなかった。ワシの不明さ故に、今回の事態を招いた」
百花文(お二人が…頭を?)
ファイテン「……」
ファイテン「二人とも、顔を上げてください」
ファイテン「まずは、校長先生から」
(…パンッ!)
ファイテン「いい加減にしてください!どれだけ、どれだけ!」
ファイテン「澄姫のその言葉を聞いたとき、私がどう思ったと!」
吉備校長「……」
ファイテン「次は、悪路王さんに」
(…ドゴッ!)
ファイテン「手に届く高さがお腹だったので、こちらに失礼しました」
悪路王「…中々に、効くな」
ファイテン「そして、この杯の水も」
(パシャッ!)
ファイテン「文ちゃんも、貸してね」
百花文「えっ…あ、えっ。は、はい」
(パシャッ!)
ファイテン「今の水の冷たさ、覚えておいてください」
ファイテン「それが、仲直りの条件です」
吉備校長「…相、わかった。ありがとう、ファイテン」
悪路王「忘れぬようにしよう。吾の身勝手が生んだことを」
………
ファイテン「よろしい!ではお二人の般若湯、半分ずつ貰いますね」
(…クイッ!)
百花文「あっ…!」
ファイテン「何をしたかったか、この杯の意味、わかりました」
ファイテン「だから私も怒りを隠しませんでした。その上で、この杯をお返しします」
ファイテン「…ほんっとに面倒ですね。二人とも!」
ファイテン「澄姫のところにいってきます。文ちゃんも、一緒に行こう」
百花文「あっ、はい!」
………
百花文「初めて、本当に謝って貰った気がします」
百花文「…ありがとう、ございました!」
吉備校長「やられた、の…」
悪路王「ああ、そうだな」
超鈴鹿御前「お二人の姿、見ていてはらはらしましたわ」
吉備校長「鈴鹿御前か…」
超鈴鹿御前「悪路王。今だからこそ、鬼として、式姫として言いたいことがあります」
超鈴鹿御前「伝承では私たちを夫婦とするものもありますから__」
超鈴鹿御前「そのよしみとして伝えておいてあげますわ」
超鈴鹿御前「いい加減、鬼の力と人の力。比べて考えるのはお止めなさい」
超鈴鹿御前「力など関係ない。遥か昔より鬼は人に最も近い隣人だった」
超鈴鹿御前「上でも下でもない。戦うこともあれば、手を結ぶことだって」
超鈴鹿御前「そして、最後には消えるもの。今までのあなたは単なる身勝手な、力を過信した子供でしたわ」
悪路王「…厳しいことを言うな。だが、ああ。今ならその言葉の意味、受け取ることができる」
悪路王「吾は未熟だった。ただの小童だったのだな、と」
………
悪路王「泉よ。以前の教員の話、受けて良かったと、伝えておこう」
吉備校長「ふむ…理由を聞いても?」
悪路王「この式姫の言う通り、鬼は最後には消えるもの」
悪路王「ならば残せるものがあることは、悪いことではないはずだ__」