【逢魔時退魔学園】
三善先生「いよいよ登山となるわけだが、準備は大丈夫か?」
ファイテン「はい。それはもう、多分!」
三善先生「力強く、多分、と言えるのはお前くらいだな・・・まあいい。少しだけ注意点を挙げておく」
三善先生「現地の火山はまだ活動中でな、視界が悪くなっているらしい」
百花文「あやかしも霧や煙を媒体としていましたしね」
三善先生「なので現地には今回、方位師も同行・・・」
百花文「ごふっ!」
ファイテン「あーあ・・・」
三善先生「冗談だ。そう血を吐くな」
百花文「じょ、冗談で血を吐かせないでください!」
ファイテン(冗談で血を吐ける方が凄いと思うけど・・・)
三善先生「現地を覆っている霧や煙には瘴気が満ちている。ファイテンならば大丈夫だろうが、一般人では強い影響を受けてしまうため、現地に商人はいない。鞄の中身に注意しておくんだな」
ファイテン「私なら大丈夫という所には突っ込みませんが、鞄の中身は確認しておくようにします!」
三善先生「では、気を付けて行ってくるように」
ファイテン「はいっ!」
百花文「あの、三善先生・・・」
三善先生「どうした、百花」
百花文「前々から気になっていたんですが、私に陰陽のお守りを渡してくれたのにファイテンさん、瘴気を気にしてませんよね」
三善先生「・・・・・・」
三善先生「あの子は幼い頃、それこそ入学前から私が鍛え上げたからな。亀の甲羅を背負っての走りこみ、穴の開いた船での川渡り・・・」
三善先生「百花も興味があるのか?それならば・・・」
百花文「ごふっ、げほっ!」
三善先生「ふふ・・・これも冗談だ」
三善先生「陰陽師の現地への転送も必要だ。そろそろ自宅に戻っておくように」
百花文「はい。わかりました」
百花文(誤魔化された・・・?それとも・・・)
【陸奥国 火山麓】
ファイテン「ここから見ると、高い山だね・・・」
百花文(とはいえ、登山は中腹まででいいみたいですね)
ファイテン「そっか。それは助かるなー。さすがに少し疲れるかなって思っていたよ」
ファイテン「まあ、そのくらいなら・・・ここまでで慣れたし」
百花文(慣れるものなのですか、それは・・・)
ファイテン「伊豆国の漁村は疲れたけど、ここはそれほどじゃなさそうだしね!」
百花文(えっと・・・煙々羅は、ここから数がさらに増えると思われます)
百花文(今まで逆に、術が効きにくいかわりに物理も通りやすい相手もいるようですよ)
ファイテン「まずは一度戦ってみないと、だね」
ファイテン「さって、それじゃ登りますか!甲羅がない分、昔よりはマシだしね!」
百花文(あ、甲羅を背負っての山登りもしたのですか・・・となるとさっきの話は本当の過去の話かもしれませんね)
村人「この先には地元の人間もあまり近寄らねえ。先に行くなら一人で行ってくんな!」
先遣隊「山道で大変だとは思うが、協力して貰えると助かる」
先遣隊「この煙は瘴気も含んでいる・・・気を・・・つけるんだぞ」
【陸奥国 火山麓 守護者前】
ファイテン「・・・ごめん。前言を撤回するね。足がいたぁい・・・」
百花文(距離はそれほどではないとは言え、同じ場所を回るのは辛そうでしたね・・・)
百花文(とはいえ、脆い岩が多かったので、道に従うのが一番の安全ですから)
ファイテン「下手に道を外れて怪我をする方が危ないしね。討伐以外では文ちゃんを安心させたいし」
百花文(ありがとうございます)
百花文(私も、ファイテンさんが進んでいる間、伝承を調べておきました)
百花文(そちらの守護者ですが、恐らくは【オンボノヤス】です)
ファイテン「お、おんぼの・・・?」
百花文(オンボノヤス。そちらの国の山中に現れるという伝承のあるあやかしです。霧がかかった山ほど、危険なものはありません)
百花文(山の霧に紛れて、旅人を迷わせる。そんな伝承らしいですよ。もっとも紛れているのは、火山の煙、瘴気に満ちた煙です。迷わせるどころではなく、強力なあやかしとなっているでしょう)
ファイテン「煙々羅みたいに、また厄介かもしれないね」
百花文(はい、十分に気を付けてくださいね)
ファイテン「山は、道に従えば危険はない。けれど、その道を惑わせるあやかし、か」
ファイテン「山とは違うし、まだ先も見えないけれど・・・私の道。まだまだ、惑わせるわけにはいかないかな!」
【逢魔時退魔学園】
三善先生「火山のかくりよの門を閉じたようだな」
ファイテン「はい。しっかりと閉じてきました!」
三善先生「陸奥国はあやかしや鬼の伝承が多い。その理由は覚えているか?」
ファイテン「はい。あまり、気持ちのいいものではなかったですが・・・」
三善先生「ほう・・・ファイテンが座学を覚えているとは珍しいな」
ファイテン「そりゃ、印象に残ってますから」
百花文(四神や方位神を忘れていたのに、ですか・・・)
三善先生「出羽にある霊山。死者の魂が行くとされる霊場。そして鬼伝説の残る城址」
三善先生「ここから先の遠征は過酷なものになる。だが、決して厳しいことだけではないからな」
ファイテン「はいっ!」
土御門澄姫「あら、ファイテン。そっちはもう終わったの?」
ファイテン「澄姫はこれから?」
土御門澄姫「そうね、火山に向かうわ。今は一歩後れを取っているけど、すぐに追いついてあげるんだからね!」
ファイテン「うん。待ってる待ってる」
土御門澄姫「それにしても、ファイテンと息が合っているのね。陸奥国は距離やその力場の問題から、方位師が帰還させるのも難しいと聞くわ」
百花文「そりゃ、私は優秀ですから!」
百花文「ごふっ、ごほっ!」
土御門澄姫「・・・まあ、そこに異論は挟まないけれど。毎回よく自宅に帰還させられるわね」
土御門澄姫「離れた所への緊急時の帰還は、相当に息が合っていないと難しいのに」
ファイテン「そりゃ、文ちゃんの目の前だしね」
土御門澄姫「・・・・・・はっ?」
ファイテン「私の自宅ってものを置いていても広いし、部屋も空いてるから一緒に住んでいるんだ」
百花文「ええ。私も助かってます。遠征や召喚の度に、色々支度しないでいいですしね」
土御門澄姫「ちょっと!どういうことよ、それは!」
ファイテン「どういうって、今言った通りだけど・・・」
土御門澄姫「ぐっ・・・」
土御門澄姫「やっぱりファイテン達には負けられないわ!今に見てなさいよ!」
ファイテン「なんでかわからないけれど、涙目で走っていっちゃった」
百花文「そして、いつのまにか【達】になってましたね」