【逢魔時退魔学園】
吉備校長「九州全体の気温が上昇していることは、百花から聞いたな?」
ファイテン「はい」
吉備校長「ファイテンが出かけたのと時を同じくして、爆発的な熱波が九州を襲ったのじゃ」
吉備校長「そして驚くべきことに、蔓延していた瘴気は一切消えた」
ファイテン「じゃあ、九州で起こっていた反乱は…」
吉備校長「それはまだ収拾できておらん。一度始めた争いはすぐに収まるものではないからの」
吉備校長「して、その瘴気と熱波の関連なのじゃが_熱波の源となったあやかしの話からした方が良いじゃろうな」
吉備校長「百花、先ほど話してくれたことをもう一度説明してくれるか?」
百花文「はい」
百花文「恐らく、熱波の原因となったあやかしは、【火魂】という、鬼火の仲間です」
百花文「伝承の中ではあまり大きな力を持ってはいないはずですが、幽世の影響を受けて種々の能力を身につけたと思われます」
百花文「古い文献で見つけたのですが_昔、海沿いの集落で鬼火のような炎が目撃された後、その炎が大きな熱を発し、辺り一帯を火の海にした…そのような話が記されていました」
ファイテン「じゃあその、鬼火のような炎が火魂で、辺りを焼いたのも…」
百花文「ええ、火魂の仕業だと思います」
百花文「話の中で最も重要な点は、その集落はいつも争いが絶えなかったという点です」
吉備校長「ここが、今回の件とも共通しておる点じゃ」
吉備校長「九州で蔓延していた瘴気は、人の感情の中でも憎しみを増幅させるものじゃった」
吉備校長「それが、瘴気が消えると同時に、九州全体を覆う程の熱波が襲った」
百花文「はい、恐らく伝承の中の火魂は、理由は不明ですが幽世の影響を受けており、争いから生まれる憎しみを食み、己の力とし大きな熱を生み出したと考えられます」
ファイテン「じゃあ、つまり…」
吉備校長「同様のことが九州で起きた、という線が濃厚じゃろうな」
吉備校長「諍いを引き起こす瘴気を放ち、人々の間の憎しみを増幅させる…」
吉備校長「それを食んだ火魂が力を蓄え、一気に九州全土に熱波を出した」
吉備校長「危険なのは、まだ各地の暴動は鎮圧されていない、ということじゃ」
吉備校長「瘴気は引いても、憎しみは増え続ける。つまり…」
ファイテン「火魂は更に力を増す、ということですね」
吉備校長「うむ。考えたくはないが、九州全土を…いや、ひいては日本全土を_火の海にしようとしておるのかもしれぬ」
吉備校長「実際に現れた幽世のことを考えると、そう大袈裟な仮説でもないのじゃ」
ファイテン「現れた幽世…桜の木の向こう、ですね」
吉備校長「そうじゃ。肥後に出現した幽世は、火の山」
吉備校長「火魂の力で、幽世の地一帯を火で覆ってしまったのじゃろう」
ファイテン「それほどの力を持ったあやかしなら、絶対に現世に来させるわけにはいきません」
ファイテン「それに、急がないと更に力をつけてしまう…」
ファイテン「校長先生、文ちゃん、調べてくれてありがとう!」
ファイテン「私、急いで幽世側に行ってくるよ」
百花文「はい!また新たに分かったことがあれば、伝心でお伝えしますね!」
【火の山】
ファイテン「予想してたことだけど…」
百花文(はい…)
ファイテン「本当に火の山…というか、解けた鉄の塊みたいなのが周りに…」
百花文(それは恐らく岩漿(がんしょう)ですね。西洋ではマグマ、と呼ばれています)
百花文(ファイテンさん…熱くないですか?)
ファイテン「あ…熱いよ!火の山だよ!?熱いに決まってるよ!」
百花文(そうですよね…)
百花文(私、今ほど自宅待機の方位師であったことに、感謝したことはないかもしれません)
ファイテン「文ちゃん、正直過ぎる感想をありがとう…」
ファイテン「でも、直感だけど、澄姫はここにはいないと思うなぁ。熱過ぎるもん」
ファイテン「特別な理由でもない限り幽世内を移動してると思う」
百花文(…同感です…)
ファイテン「うぅ…子供の頃からかなり過酷な場所で修行してきたつもりだったけど…この熱気は本当に、身体に応えるなぁ…」
百花文(…!!)
百花文(もしかして…)
ファイテン「ん?」
百花文(私はずっとファイテンさんの方位師をしてますから_ファイテンさんの身体が、どれ程常人離れしてるか知っているつもりです)
ファイテン「えっと、褒めてるのかな…?」
百花文(そのファイテンさんをしても、身体に応えると言わしめる炎…)
百花文(普通の炎ではない、つまり実際に、何かが燃えている炎ではないかもしれません)
百花文(試しに、陰陽の御守りを、頭上にかざしてみてくれませんか?)
ファイテン「こうかな?」
ファイテン「…え?」
ファイテン「熱さが弱まった…!」
百花文(あやかしの発した熱ですから、その御守りが和らげる働きをするのでしょう)
百花文(元が火魂によるものですから、当然のことです。もっと早くに気づくべきでした、ごめんなさい)
ファイテン「ううん、助かったよ!この熱には辟易してたからね!」
ファイテン「でも、この炎が現世へ出ていったら、大変なことになるね」
ファイテン「よーし、早く火魂を見つけるね!」
少女「うーん…今回の試練はこんなものかしらね。…え?今、目があったような…」
少女「…………み、見えてるの?」
【火の山 火魂の祠】
ファイテン「ここに火魂がいるんだね。とうとう見つけた!」
ファイテン「火魂を倒せば、九州も涼しくなる!」
百花文(涼しくなる…まぁ、間違ってはいないですが…)
ファイテン「うぅ…早く帰ってかき氷でも食べたいなぁ」
百花文(陰陽の御守りで和らいだといっても、やっぱり熱いんですね…)
ファイテン「うん、一刻も早く戻りたいくらいね」
ファイテン「ここに澄姫はいなかったし、手がかりもなかったし…」
ファイテン「早く火魂を倒して、別の場所を調査した方がいいよね!」
ファイテン「早速行って来るよ!」
百花文(ちょっと待ってください、相手は大きな九州をも熱波で包む力の持ち主です)
百花文(どうやって戦うか、何か戦略を立てた方が…)
ファイテン「うーん、確かにそうだね」
ファイテン「戦略戦略…あ」
ファイテン「火を使うあやかしだからさ、水をかける!」
百花文(う、うーん。まぁ、理屈ではそうですね)
百花文(残念ながら、文献にも火魂の弱点は載ってませんでしたから_)
百花文(火には水、単純ですが、基本的な戦術が効くかもしれません)
ファイテン「だね!よーし、じゃんじゃん水をかけるよ!!」
ファイテン「本当に水が効いたね…!」
百花文(はい…!どうやら現世側の熱波も引いたようです)
ファイテン「本当!?良かったー!この辺りはまだまだ暑いけどね!」
田野久「またおぬしか…!」
百花文(あ…)
ファイテン「げっ!」
田野久「げ、とはなんじゃ!武士に対し、無礼であるぞ!」
ファイテン「ご、ごめん。つい…」
百花文(すみません…)
田野久「は!この声は…!」
田野久「文殿か…!」
ファイテン(ばれちゃったね…文ちゃん)
百花文(あ…は、はい…)
田野久「コ、コホン…して、ご機嫌いかがかな?文殿」
渠師者「田野久…お前は何をしにここへ来たのだ…?」
田野久「親分!?」
渠師者「火魂の山に人間が入ったから、見に来てみれば…」
渠師者「またお前か…」
ファイテン(同じ台詞だ…)
百花文(ですね…)
田野久「ああ!親分!火魂がやられたようです!」
渠師者「なに?」
渠師者「田野久の時といい、邪魔ばかりしてくれるな」
渠師者「一体、お前の目的は何だ?」
ファイテン「目的は、前も言ったように、澄姫を見つけることだよ!」
ファイテン「それから、幽世の害を止めること」
渠師者「ふむ…」
渠師者「あの、くだらない者どもを守るのか」
渠師者「瘴気を流して憎しみを生み、火魂を使い業火で焼いてやろうと思っていたが…」
渠師者「まぁ良い。今回はお前の力を認めよう」
ファイテン「ちょっと待って…!」
ファイテン「あの瘴気も、各地の暴動も、今回の熱波も…お前が仕組んだのか!?」
渠師者「だったらどうすると言うのだ?」
渠師者「争いは、もとより人間の好むところだろう?」
渠師者「それが力ある者によって懇意的に作られた争いでもな…!」
渠師者「憎しみの瘴気は人間の心の裡(うら)の業火となり、火魂の力となった」
渠師者「瘴気が餌としたのは元来お前たちが持つ憎悪の念だ」
ファイテン「人の感情を餌にした…?」
渠師者「無論だ。お前ら人間を利用して何が悪い」
渠師者「考えることを放棄し、力ある者が何をやっているのか知ろうともしない」
渠師者「お前も例外ではないだろう?幕府を、自由にさせているではないか?」
ファイテン「そんなこと__」
渠師者「ない、と言い切れるのか?」
渠師者「お前はわかっていない。お前が戦うべきは幽世ではない」
渠師者「事実、お前はその身に常夜を宿しているではないか」
ファイテン「!!」
渠師者「…澄姫とかいう娘を見つけたい、だったな」
渠師者「娘は生きている。だが、現世へ戻る気はないようだぞ」
渠師者「まあ、その意志はあったとしても、あの身体では無理かもしれんが…」
ファイテン「それはどういう意味…!」
渠師者「もしお前が再び幽世を訪れるなら、会えるかもしれん」
渠師者「田野久、戻るぞ」
田野久「へい!親分!」
渠師者「親分と呼ぶなと…!」
田野久「すいやせん!」
田野久「っは!文殿…!聞いていらっしゃるか!?」
田野久「またお目にかかれることを、この田野久、楽しみにしているでござる!」
田野久「では、さらば!」
渠師者「田野久、お前…まさか…」
渠師者「…恋をしたのか?なぁ、たのきゅー」
田野久「親分、そのあだ名はやめてくんなせえ」
渠師者「すまん。だが…」
渠師者「…女には…気をつけろよ」
ファイテン「………」
百花文(………)
ファイテン「すごい話を聞いた後だけど、なんていうか…」
ファイテン「最後のあれ、なんだったんだろ…」
百花文(ですね…)
【逢魔時退魔学園】
吉備校長「まずはよくやった。九州の熱波は引き、暴動も順に沈静化しているそうだ」
吉備校長「ともすれば新たな場所で幽世が現れるとも限らぬが_瘴気と熱波の問題は解決した。九州は一旦大丈夫と言って良いだろう」
吉備校長「問題は、土御門のことじゃな」
ファイテン「はい…」
吉備校長「渠師者の言とはいえ、はっきりと無事がわかったのは吉報じゃが_自らの意志で帰って来ないとなると…」
百花文「何か理由があるのでしょうか?」
ファイテン「もちろんそうに決まってるよ!」
ファイテン「澄姫が理由もなく…戻らないなんて、ないよ」
吉備校長「…そうじゃな」
吉備校長「土御門の本意を確かめる為には、やはりもう一度幽世へ赴き、本人を見つけるしかない」
吉備校長「こうなっては、先ほどの言と幾分矛盾するが、別の地で幽世が現れるのを待つしかないな」
ファイテン「そうですね」
ファイテン「現世に被害が出る時は、私が真っ先に源を断ちますから!」
吉備校長「…うむ」
ファイテン「あれ…?」
ファイテン「そういえば三善先生は?一度戻った時も、姿が見えなかったですが…」
吉備校長「……」
吉備校長「それがな。八重は、幕府へ赴いたまま、まだ帰らぬのだ」
ファイテン「え…」
百花文「学園から何度も使いを出しているのですが、まだ何もわからない状況です…」
ファイテン「八重さんが…?」
渠師者「お前はわかっていない。お前が戦うべきは幽世ではない…」
ファイテン「八重さん…」
【筑後龍神】
吉備校長「幽世が出現したので、まさかとは思っておったが…」
ファイテン「どうしました?」
吉備校長「筑後国に流れる筑後川には、昔から【輝龍】と呼ばれる龍神がおってな」
百花文「輝く龍、ですか」
ファイテン「神々しい見た目なんですか?それなら願い事も叶えてくれたりして…」
吉備校長「こらこら、勝手な妄想を膨らませるな。実際は、真逆じゃ」
ファイテン「えっ…」
吉備校長「強すぎる光ゆえにな、近づいて無事に戻った者はおらんと伝わっておる」
吉備校長「じゃからこそ、陰陽師達の手で祠を作り、その光を封印しておったのじゃが…」
吉備校長「幽世の瘴気の影響、もしくは、九州を覆った熱波の影響か」
吉備校長「元来は人間がむやみに近づかぬ限り、無駄な殺生はしない気性じゃったが_どうも狂暴性を増しているようでな」
ファイテン「なるほど…」
吉備校長「封印が解かれる心配はしておらぬから、無理に挑まずともよい」
吉備校長「じゃが、幽世の影響を受けた龍神がどのような変異を遂げているのか」
吉備校長「今後現れる幽世やあやかしの為に、知っておいた方が良いかもしれんと思っての」
ファイテン「なるほど、ではきちんと準備した後、挑んでみます」
吉備校長「うむ。じゃが、強くなったとはいえ、一人で挑むような真似はしてはならぬ。他の陰陽師と共に挑むようにな」
ファイテン「わかりました!」
コメント
急にすみません。最近youtubeを見始めた者です。wotの更新はもうなさらないんですか?
古き良きWOTはもうありませんからね。
今は昔の夢にひたっています(笑)
こんにちは。
スペースお借り致します。
お友達がたくさん出来て、投稿に参加する度ごとに直筆のカード式のファンレターが3~30枚以上届く文芸サークル(投稿雑誌)をやっています。
ネットでのやりとりも楽しいですが、ぬくもりが伝わるアナログでの活動は温かい気持ちになり、楽しさや幸せをより感じられます。
イラスト・詩・漫画・小説・エッセイなどジャンルを問わず何でも掲載しています。
月刊で100ページくらい。全国に約120人の会員さんがいます。
あなたがブログで発表している作品を雑誌に掲載してみませんか?
東京都内で集会も行っています。お友達や創作仲間作りにご活用下さい。
興味を持たれた方には、現在雑誌代と送料とも無料で最新号をプレゼントしています。
よろしかったらホームページだけでもご覧になって下さい。
ホームページにある申込フォームから簡単に最新号をご請求出来ます。
http://www2.tbb.t-com.ne.jp/hapine/
これからもブログの運営頑張って下さい。
失礼致しました。