【逢魔時退魔学園】
三善先生「今回受けて欲しい試練は、少し内容が違ったものになる」
百花文「・・・この前のように、影響を受けたあやかしの討伐でしょうか?」
三善先生「違うな。ファイテン、かくりよの門は陰陽師の数だけ開く、これを覚えているか?」
ファイテン「はい。さすがに忘れようがありません」
三善先生「実はな・・・一人、陰陽師が行方不明になったのだ」
ファイテン「えっ?行方不明に・・・?」
三善先生「ああ、そうだ。どうしても学園では行方が掴めない。今回は、彼女が最後に向かった遠征先での探索が試練となる」
百花文「学園でも見つからないのに、私たちで大丈夫なのでしょうか?」
三善先生「力のないものでは難しい遠征先でな、また、その地方のかくりよの門はファイテンならば開いていてもおかしくない。偵察もかねて、になるな」
ファイテン「わかりました。行ってきますね」
三善先生「遠征先は【遠江国】にある【鵺の湖畔】だ」
百花文「遠江の湖というと、漁が盛んでしたね」
三善先生「そうだな。遠征先の湖は、湖でありながら海魚を主とした漁らしい」
三善先生「だがまずは、行方不明者の探索が第一だ」
ファイテン(あ・・・さすがに今回は食べ物に言及しないのか)
三善先生「どうか、よろしく頼んだぞ」
【遠江国 鵺の湖畔】
先遣隊「探索か・・・果たして、お前は・・・」
村人「光があるところには、魚が良く集まるんだよ」
村娘「この先に進むと、戻れないのよ・・・どういうことなのかしら」
村人「光で魚をおびき寄せて、銛で突くのをたきや漁っていうんだぜ!」
漁師「これだけあやかしの光が多いと、漁にでれやしねぇよ!」
村娘「たきや漁に出ることも少なくなって、静かな湖畔になっちゃった。でもこれはこれで、ね」
漁師「例え漁に出れなくとも、腕は磨く。お前さんたちもそうだろう?」
???「…そう、そうね。私はここにいるから、そのことだけ伝えてもらえないかしら?」
【逢魔時退魔学園】
三善先生「行方不明者は見つかったか?」
ファイテン「はい、でも自分はここにいるから、と。報告だけお願いされちゃいました」
三善先生「・・・そうか。お前には見えたのか・・・」
ファイテン「えっ、見えた?」
三善先生「校長先生に今回のことは話しておく。後で学園裏まで来てほしい」
ファイテン「は、はい。わかりました」
三善先生「では、その時にな」
百花文(行ってしまいましたね)
ファイテン「何となくわかってきたけど・・・行くしか、ないよね」
【逢魔時退魔学園 裏手】
吉備校長「来たかファイテン」
ファイテン「校長先生、私は・・・」
吉備校長「聞きたいことはわかっておるよ。そうじゃな・・・昔話からいこうか」
吉備校長「かくりよの大門が開いて間もない頃じゃ。当時はこの学園もなくての」
吉備校長「陰陽師は各地の名家か、個人の弟子しかいないような状態じゃった」
吉備校長「ある陰陽師の元に、二人の弟子がいた。そして、生き残れたのは一人だけじゃった」
三善先生「・・・・・・」
三善先生「百花。方位師の成り立ちを覚えているか?」
百花文「はい。逢魔時退魔学園の建立と同時に、吉備校長が作られたものだ、と」
吉備校長「力のある陰陽師の中には、転送や帰還を自らの力で行える者もおる」
吉備校長「だが、修行中の身ではそれも難しく、よしんば術自体は扱えても自己判断で、退き際を誤る。ワシが学園を作った理由のひとつでもあるな」
ファイテン「じゃあ、あの子はやっぱり・・・」
吉備校長「ああ、先ほどの話に出てきた、生き残れなかった方の弟子じゃ」
三善先生「あの湖に開いたかくりよの門。守護者の鵺討伐に行ったまま、帰ってこなかった」
吉備校長「折れることを知らない、真っ直ぐな子だった。そう、ファイテンのようにな」
吉備校長「ワシや八重がその後に駆けつけても、痕跡すら見つけられなかった」
吉備校長「ただ、蛍のあやかしが増えていただけじゃ。彼女の記憶が、あやかしとなったのだろう」
百花文「だから、川蛍が陰陽師の職業と同じ動きをしていたんですね・・・」
吉備校長「ここまで力を付けた生徒はおったが、彼女を見つけられたのはお前だけじゃ」
吉備校長「彼女を、救ってやってほしい」
ファイテン「救う・・・ですか」
三善先生「かくりよの門より現れたあやかしは陰陽師を呼ぶ。自らを召喚させるために。門を離れ、常世で動き出すために」
三善先生「今回は・・・鵺が、彼女の今際の思いを形代にし、現出している形になる」
三善先生「伊豆網代漁村の蟹は、絵物語から力を得たものだ。人一人の今際の想いから力を得たものは、どれだけのものか計り知れない」
三善先生「頼めるのは彼女を見つけられたファイテンだけ、となる」
吉備校長「守護者の鵺と、現出した鵺。次の討伐はこの二体が対象じゃ」
三善先生「私からも頼む。彼女を、救ってやってくれ」