第36章 土佐:土佐海岸

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【逢魔時退魔学園】

隠神刑部 ファイテン 校長

隠神刑部「海より現れるアレについてだが__」

ファイテン「は、はい…!」

隠神刑部「何もわからぬ。吾輩も気配を感じておるだけじゃからな」

ファイテン「はあ…は? えっ?」

隠神刑部「呆けた顔をするな。気を緩ませるな」

(ぱん、ぱん!)

ファイテン「ちょ、ちょっと。気軽に叩かないでくださいよ!」

隠神刑部「叩いてみなければ張りはわからぬ。覗いてみなければ中はわからぬ」

隠神刑部「力がねじ曲がり、うねり。何かが生まれようとしているのは確か」

隠神刑部「じゃが、生まれる前に知るには叩くほかないのじゃ」

ファイテン「…煙に巻いてますよね。もう。まったく…!」

吉備校長「隠神刑部でもわからぬか。大言の割には大したことがないのう」

隠神刑部「陰湿な小娘じゃのう。張らぬと言われたことがそんなに不満か?」

吉備校長「…その話は、後でじっくりするとしよう」

隠神刑部「同感じゃが、その前にファイテンは逆打ちを完逐させる必要がある」

隠神刑部「…じゃろう?」

吉備校長「うむ。中身がわからずとも、中身に触らずとも__封じてしまえばいい。祟りとして現れる前にな」

ファイテン「まーたそうやって、追いて話をするんですね」

隠神刑部「拗ねるな拗ねるな。吾輩はちゃんと説明するぞ」

隠神刑部「この四国の旅、八十八箇所を逆に回っていたこと」

隠神刑部「それはさっき伝えたな。器の状況も確認した」

ファイテン「は、はあ…」

隠神刑部「土佐国で最後だ。完遂してくるがいい」

隠神刑部「恐らくは、お前に相応の力を満たし、四国に結界を張るためのもの」

吉備校長(そこまで見抜くか。この色狸は…)

ファイテン「阿波国から巡ったのは、私が言い出したんですが…」

吉備校長「すまんな。その場に悪が居たじゃろう?」

吉備校長「もし阿波国と言いださねば、それとなく変えさせるつもりじゃった」

ファイテン「ぐ、ぐうう。お酒の瓶、隠しておかないと…!」

隠神刑部「残る遍路の逆打ちじゃが、土佐国へ遠征し、そこからになる」

隠神刑部「少し歩いて伊予国の残りを巡り、土佐に至って四国を一周すればよい」

ファイテン「つまり、それが次の遠征の目的。ってことですか?」

吉備校長「ああ、そうなるの。土佐国にかくりよの門は確認されておらん」

隠神刑部「あやかしはおるようじゃが、大きな戦いはないじゃろう」

ファイテン「予想外の門が!とかも大丈夫ですよね…!」

隠神刑部「予想外のものは、予想できぬから予想外なのじゃよ。文字通りにな」

吉備校長「何かあったら戻ってきてくれ。目標はあくまで遍路の完逐」

隠神刑部「無茶はしてくれるなよ?」

ファイテン「うーん。それだけで終わるのかな…でも、わかりました」

………

隠神刑部 校長

隠神刑部「話を聞かずとも愛比売の状況や、あの娘を見ていればわかる」

隠神刑部「どこまで背負わせるつもりじゃ。小さき腕と、小さな背中に」

吉備校長「…少しでも」

隠神刑部「ふむ?」

吉備校長「少しでも軽く、そして早く。その荷を替わりたいのじゃ」

吉備校長「贄でしか終われぬのなら、それまでの荷も含めて、全てを」

………

隠神刑部「娘の正体、一度でも幽世に触れたものなら察せられる」

隠神刑部『返り、生まれ変わる』『死者との面談が叶う』

隠神刑部「逆打ちの意味としてあるこの言葉。関係が無い、わけが無いのう」

吉備校長「ファイテンにしかできぬことがある。託すことしかできぬことが」

隠神刑部「だったらちゃんと教えてやれ。あの胸が破裂する前にな」

【土佐国 土佐海岸】

ファイテン「伊予国から連続で、ここまで歩いてきたけれど__本当に何も無かったね。うーん。考えすぎだった…?」

百花文(でも、私も聞いていて同じように思いましたし__)

ファイテン 文2

百花文(今までが今まででしたからね!)

ファイテン「ふふっ、そうだね。ここは、船の修繕所もあるみたい」

百花文(四国には【四万十川(わたりがわ)】と呼ばれる巨大な河川があります)

百花文(この近くから海に流れ込んでいるらしく、川船の修繕にもいいのかもしれませんね)

ファイテン「四万十川かあ…龍神になったり、とかしないよね?」

百花文(そ、そこまでは…まだわからないですね)

ファイテン「うぅん。どうも先のことばかり心配しちゃうなあ」

百花文(それも仕方ないと思います。私だってそうですから)

ファイテン「あやかしの気配もするし、まずは目の前のことから!」

ファイテン「最後の遍路を終わらせて、それから考えないとね!」

土佐海岸
先遣隊「この先で妙なものを見つけたら、むやみに近づくんじゃないぞ」

旅人「ここから先に行っても良いものか…どうにもそわそわするんだ、長年の勘でね」

武士「潮風で装備品がべたつくなァ…仕事を放り出して帰りたくなっちまう」

漁師「ここ最近、よく揺れるから魚も獲れなくてな。ちょいと遠くまででないとダメかもしれない」

漁師「ここのところ、漁に出てもさっぱりだからねェ。助かってるよ、これで働かずに済むってもんだ」

行商人「どうです、お客さん!さあ、見るだけでもかまいませんからね!」

漁師「あそこにいる商人、押し売りがひどいんだよ。こっちは漁にでられなくて、それどころじゃないってのにさ」

武士「俺と同じくらいの年頃の武士を見なかったか?ちょっと持ち場を離れると言って、戻ってこないんだ」

漁師「地面が揺れてる間は、海も荒れる。俺たちは海の機嫌に任せるしかないのさ」

旅人「おいしい魚が食べられると思ったんだけどなぁ…次に来た時のお楽しみかな」

漁師「お前さんも、そこの大穴を見に来たのか?危険だから近付かないように」

漁師「ここは涼しいから休んでるんだ」

土佐海岸・幽

ファイテン「…これ、は…かくりよの門?」

百花文(あの…何を__)

百花 ファイテン 隠神刑部

隠神刑部(おいおい。『何もない』洞窟で何をしておる?)

ファイテン「隠神刑部…さん?」

隠神刑部(海に流れ出た何か、は確かにここから流れ出た)

隠神刑部(が、今は何も残さず。ここは、地元漁師の休憩も行われる洞窟じゃ)

隠神刑部(陰陽師が長く残っては不安にさせてしまうぞ?)

ファイテン(えっ、そ、その…!)

隠神刑部(何か、があるんじゃろ?じゃがそれは、吾輩にのみわかる)

隠神刑部(『それが見えたこと』も含め、あの小娘も交えて話を聞こう)

【逢魔時退魔学園】

隠神刑部 ファイテン 文 校長

吉備校長「今言ったことは、真実か…?」

隠神刑部「ああ。相違ない。アレが現れた門、でな」

百花文「こうなることをわかってて…黙っていたんですか!?」

隠神刑部「そう怒るな。この小娘も予想していなかったこと」

隠神刑部「吾輩も口に出せぬことだったのだ。責を代わりに受けるとは言わんが、そのつり上がった眉、荒い語気は似合わぬぞ」

百花文「…つ!」

………

隠神刑部 ファイテン 悪路 校長

悪路王「『守護者の居ない、幽世へと踏み込める開いた門』そう言ったな」

悪路王「そして__」

吉備校長「『踏み込めるものはファイテンと自分のみ』とも」

隠神刑部「いかにも。あの門の近くにファイテンが寄ったとき__確かに繋がりを感じた。アレの正体もあわせての」

隠神刑部「海より現れ、四国を沈めるもの。その後この国全てを沈めるもの」

隠神刑部「名は【海坊主】その響きに、惑わされてはならぬぞ」

隠神刑部「伝承が全国に残り、多くの姿を持ち、どこにでも現れる大妖怪」

吉備校長「まして四国を沈めたとなれば__」

悪路王「噂は尾を伴って大きくなろう。この国をも沈めるほどに」

悪路王「船を沈めるのではなく、大陸を沈める力を持つ、とな」

隠神刑部「吾輩も考えが甘かったことだ。責任をもって付き合おう」

隠神刑部「事は愛比売のみではなくなり、この国の危機にも繋がる」

隠神刑部「…それは、イヤじゃろう?」

ファイテン「はい…はい!それは絶対にイヤです!」

ファイテン「私だけが、その門の向こうへと行くことができるのなら__」

隠神刑部「勝手に一人で背負い込むな。他にも、踏み込める者はいると言ったぞ?」

隠神刑部「元々四国と繋がりがあり、妖怪であった吾輩も、な」

(ぱん、ぱんっ!)

ファイテン「…私の張りは大丈夫ですか?」

隠神刑部「大したものじゃ…お前を失うのは正直惜しい」

隠神刑部「今回限り、また人の為にこの吾輩の力を貸そう」

隠神刑部「共に門より【幽世】に至り、【龍神の髭】を持ち帰るのじゃ」

隠神刑部「海坊主を出現させるための依代として投げ込まれたものを」

ファイテン「私と隠神刑部さんで…ですね」

隠神刑部「じゃがそれだけでは足りぬ。確実に封印するには足りぬのじゃ」

隠神刑部「おい、小童。お前の元の姿と、事を仕込んだ陰陽師は__大変なことをしてくれたな。お前にも手伝って貰おうとしようかの」

隠神刑部 ファイテン 悪路 校長

悪路王「吾を小童と呼ぶか。姿を取った時期を考えれば仕方のないこととはいえ」

悪路王「…だが、元はと言えば、だ。良いだろう。今は黙って従おう」

隠神刑部「さて、頭は足りるかどうか…」

隠神刑部「吾輩、小娘、小童、あの式姫…あと一人、必要じゃな」

隠神刑部「【龍神の髭】にて海坊主を呼び出し、力を削いだ隙に__」

吉備校長「相分かった。結界がいるのじゃな。伊邪那岐神社を中心とした」

隠神刑部「張りが戻ってきたようだのう。その通りじゃ」

隠神刑部「髭を取って戻るまでにあと一人見つけておけ」

………

百花 ファイテン 隠神刑部

隠神刑部「では、向かうとするかの。麗しの君、転送を頼むぞ」

百花文「…無事に、帰ってこられるんですよね」

隠神刑部「それは吾輩に問うことではない。ほれ、答えてやれ」

ファイテン「大丈夫、文ちゃん。私は、絶対に、しっかり帰ってくるからね!」

百花文「…信じます。信じますよ!ファイテンさん!」


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