【逢魔時退魔学園】
百花文「ファイテンさん…伊邪那岐神社、ですか」
ファイテン「文ちゃん。ひょっとして、事前に聞いてた?」
百花文「はい。恐らく次の遠征地はここになるだろう、って」
ファイテン「そっか…準備がいいなあ、校長先生」
ファイテン「学園裏での話も聞こえていたと思うし、とにかくいってくるね」
ファイテン「帰ったら…うん。聞いて欲しいことが一杯あると思うんだ!」
ファイテン「だから、少し遅くまで起きててね」
百花文「…ふふ、わかりました。濃いお茶も、用意しておかないとですね」
ファイテン「それじゃ、いってきまーす」
………
百花文「全部は、話してなかったですね。でもそれが正解だと思います」
吉備校長「物事には順番があるそれに悪のことが気がかりじゃ。支えの一つであったことは間違いなさそうじゃしな」
吉備校長「この遠征が無事に終われば、ワシは事を確かめに陸奥国へ向かう」
吉備校長「もしものときは…頼んだぞ」
百花文「__はい」
【淡路国 伊邪那岐神社(いざなぎじんじゃ)】
ファイテン「門は開いていなかったのに、あやかしは結構いるんだよね」
百花文(元々古い伝承のある土地ですし、何かしらの影響があるのかもしれませんね)
ファイテン「…あんまり実感わかないな。母の式姫、っていわれてもさ」
百花文(ご家族の記憶、覚えていないと以前仰ってましたしね…)
ファイテン「あっ!どうしよう!」
百花文(ど、どうかしましたか!?)
ファイテン「なんて呼べばいいのかな!?ちゃん付けとか失礼かな?」
ファイテン「うーん…考えておこう」
百花文(ふふ…ふふふ。そうですね、一緒に考えましょうか)
先遣隊「この神社には伊邪那岐様が顕現しているので、信仰がとても深く、あやかしにも影響を与えているらしい」
行商人「必要なものがあれば、仰ってください。お供え物にもばっちりですよ」
お坊さん「ここを進むと境内になりますゆえ、粗相のないようお願いします」
旅人「ふむ、ここからの眺めもまた良し!わざわざ来た甲斐があるな」
参拝者「この池のほとりを歩いていると、なぜか心が落ち着くのよね」
お坊さん「放っておくとすぐに雑草が生えてしまうから、常日頃から気にかけないと大変なんだ」
和尚「伊邪那岐様はいまここには居ないですぞ。この時間なら池のほとりで休まれているはずです」
巫女見習い「ここのご神木に毎日祈っています。早く一人前の巫女になれるようにって」
巫女見習い「この先は伊邪那岐様が休まれている場所です。今日は誰かを待っているように見えました」
【伊邪那岐神社 池のほとり】
???「__来たか」
ファイテン「…な、なんだろう。この雰囲気。威圧感とも違う、けどこれは…」
………
???「自分から話し出すにはまだ辛そうだな。少し手を貸してやろう」
伊邪那岐「己(おれ)の名は伊邪那岐。お前の名は何と言う」
伊邪那岐「いや、どう名乗っているのだ?聞かせてみろ」
ファイテン「わ、私はファイテン、です。伊邪那岐…様」
ファイテン「校長先生…吉備泉から、あなたが私の母の式姫だと聞いてきました」
伊邪那岐「ふ、ふふ…はっはっはっ、そうか。お前の、母の、式姫か。なるほどなるほど」
伊邪那岐「泉もかわらんな。いや、変わらぬことを驚くべきであろうな」
ファイテン「私と会う必要がある。と、手紙に書いてあったと聞きました」
伊邪那岐「相違ない。己がお前を見る必要があった。己を使役している陰陽師のことも含めてな」
ファイテン「__それじゃ」
伊邪那岐「まあ待て、その前にやることがある」
ファイテン「やる、こと…ですか?」
伊邪那岐「来い、ファイテン。少し力をみてやろう」
ファイテン「え、ええっ!」
伊邪那岐「己に与えられた命令は退屈でな。身体を少し動かしておきたい」
伊邪那岐「お前の力も直に見ておく必要がある。なにこの戦いもまた神へ奉納される力競べだ。そう構えることもない」
伊邪那岐「だが、己への奉納品と思い、全力で来い。汚すことは許さんぞ」
ファイテン「わ、わかりました…。いきます!」
【逢魔時退魔学園】
百花文「おかえりなさい!ファイテンさん!」
吉備校長「戻ったようじゃな。伊邪那岐はどうじゃった?」
ファイテン「そ、それが__」
吉備校長「ふむ。いや、待つがいい…」
………
吉備校長「学園裏に来るんじゃ、ファイテン。少し面白いことになっているようじゃな」
ファイテン「は、はい…あの、多分ですけど…」
吉備校長「ああ、その通りじゃ。伊邪那岐がついてきておる」
【逢魔時退魔学園 裏手】
ファイテン「あの…」
伊邪那岐「お前が己に見せた力、十分であった。楽しいひと時であった」
伊邪那岐「褒美。という訳ではないが、今後のためもある。かくりよの大門が開いたときのことを語ろう」
伊邪那岐「方位師よ」
百花文(は、はいっ!)
伊邪那岐「伝心を切り、席を外してくれないか」
伊邪那岐「詳しい話は直接聞くといい。友達であるならば」
百花文(…わかりました。あの__)
吉備校長(ワシのことなら気にするな。同じでもあるし、別件でもある)
吉備校長(それよりもこの後のこと、重ねて頼もう。頼んだぞ)
百花文(…はい)
………
伊邪那岐「伝心は切れたようだな。では問おう。己の主の娘と名乗る者よ」
伊邪那岐「お前の名前はなんだ?」
ファイテン「私の名前は__」
伊邪那岐「かくりよの大門が開かれたとき、己も主と共に居た」
伊邪那岐「【うつしよ】へと開いた門。外れた閂には替わりが必要だった」
ファイテン「……」
伊邪那岐「生きた身で門を通り【向こう側】へ行った場合、同じ重さのものが遺される」
伊邪那岐「でなければ、生と死の調和も崩れる。なあ__
【あの日生まれた者】よ。今一度問おう__」
伊邪那岐「お前の名前はなんだ?」
ファイテン「……」
………
ファイテン「お待たせー、文ちゃん!これから戻るね」
ファイテン「校長先生への報告、終わったよ!伊邪那岐さんとの話も!」
百花文(えっ、ファイテンさん!?それに伊邪那岐さん、って…)
ファイテン「次の遠征までは間がありそうだし、しばらくは鍛錬しろってさ」
ファイテン「伊邪那岐さんも手合わせしてくれるっていうし、ちょっと楽しみ。澄姫に自慢しちゃおうかな」
ファイテン「とにかく、今から戻るねー!」
伊邪那岐(方位師よ。今のファイテンは淡路島前後の記憶が薄れている)
百花文(…は? えっ? はい?)
伊邪那岐(ひしゃげて潰れる前に、泉が散らした。泉のことは聞いたらしいな)
百花文(…はい。ですが、ファイテンさんのことは何も__)
伊邪那岐(そのことは泉も伏せたこと。本人から直接聞くしかない)
百花文(待て、と言うことなんですか。随分勝手ですね。みんな…みんな!)
吉備校長(…すまん)
………
伊邪那岐「泉よ。己たちも嫌われたものだな。だが、どこか心地よい」
吉備校長「土御門も百花も、ファイテンを想っての怒り、じゃからな…」
伊邪那岐「ひしゃげて潰れるから、ではないな。お前が記憶を操作したのは」
伊邪那岐「それが、今残っている部分の力か?己は見たことがなかったしな」
吉備校長「さて…もう覚えておらぬな」
吉備校長「話を止めたのは、悪の…悪路王の気配があったからじゃ」
伊邪那岐「残滓(ざんし)は己も感じたが、今は露と消えている」
伊邪那岐「準備が終わった、と勘違いしてくれれば良いのだがな」
………
伊邪那岐「人は見たいものだけ見て、都合の悪いものは敢えて見ないときがある」
吉備校長「今悪路王が居ない理由、ファイテンはまだ向かい合っておらん」
伊邪那岐「自ら片目を与え、一目連と存在を近しくし、各地を巡る陰陽師から力を得る」
伊邪那岐「既に受肉している姿にさらに力を注ぎ、かくりよの門を制した上で降臨する」
………
吉備校長「まずはワシが陸奥国へ向かう。真実はわからぬままじゃしな」
伊邪那岐「甘いな、泉よ。本当に、どこまでもお前はそのままなんだな」